神武天皇には、なんと複数の生誕地が存在する
ところで、この神武天皇は一体どこで生まれたのだろうか。宮崎県内には、なんと複数の生誕地が存在する。これらもすべて伝承にもとづく。
そのひとつは、県南・日南市に鎮座する鵜戸神宮付近である。太平洋の荒波が寄せくる日向灘に面する、本邦一級の景勝地だ。社殿は、潮の香が鼻をつく洞窟のなかにある。かつて日本を親善訪問したヒトラーユーゲントも、ここを詣でたという。
ヤシの木が茂り、白い砂浜が続く南国の景色を楽しみながら、宮崎市よりひたすら南下すると、山間に入り口が現れる。
この日は、台風19号が本州を襲った日だった。宮崎は30度を超す快晴だったが、波は激しく、岸壁にぶつかっては炸裂し、飛び散った。そしてしぶきは雨のごとく降り注ぎ、濛々たる靄となり、ときに薄い虹を作った。
眼前の巌はこのような波に侵食され、なめらかな表面を持ついっぽうで、まるでキノコが生えたような突起も持っていた。まことに奇観である。ずっと眺めていても飽きが来ない。誰もがスマホやカメラを構えて、なかなかその場を離れなかった。
ここは、神武天皇の父であるウガヤフキアエズの生誕地ともいわれる。だが、海を見ているうちに、そんなことはどうでもよくなってしまった。
そういえば、宮崎市と鵜戸神宮の間に位置する青島神社には、日向神話館なる施設があり、神話の場面ごとに蝋人形が展示されていたのだが、入口と出口には、毎年参拝にくる読売巨人軍の選手の写真などが展示され、神話よりも目立っていた。長嶋茂雄にいたっては蝋人形も作られ、「神」扱いに近い。
神武天皇の祖父ホオリなどを祀る神社なのにこの状態。まさにカオスだった。そんな土地柄だから、あまり細かいことを気にしても仕方ないのかもしれない。
南北にふたつある「神都高千穂」
神武天皇の曽祖父ニニギは、高天原より高千穂に降り立ったとされる。この天孫降臨の神話は記紀に記されているが、その高千穂の具体的な場所は特定されていない。
古来より、県北西部の高千穂町と県南西部の高原町が、有力な比定地とされている。公式ウェブサイトでは現在、前者が「神話と伝説の町」、後者が「神武の里」となっている。つまり高千穂は南北でふたつあるわけだが、神話のことなので、われわれがそれほど真剣に考える必要はない。