文春オンライン

即位の礼に合わせて「天皇家の故郷」を観光したら、予想以上にカオスだった

神話と歴史が混ざってしまうリスクは?

2019/10/19
note

 今回は、北の高千穂町を訪れた。街なかの案内板にいわく、「天孫降臨の地 神都高千穂」。まことにパワーワードである。

 この町にも、やはり神武天皇生誕の地が存在する。ニニギが降臨したとされる槵觸(くしふる)山にある、「四皇子峰(しおうじがみね)」と呼ばれる場所がそれだ。ここで、神武天皇を含む四兄弟が生まれたという。

高千穂町の「四皇子峰」

「神都」だけにどんな場所なのだろうと期待して行ったが、ずいぶんと殺風景だった。山の中腹に、開けた場所があるにすぎない。すぐ近くには、ニニギたちが高天原を仰ぎ見たという高天原遥拝所なる仰々しい名前の場所もあったが、こちらも小さな祭壇があるだけ。ほかに観光客はゼロ。いささか拍子抜けしてしまった。

ADVERTISEMENT

カオスを「自覚的に」楽しんだほうがよい

 もっとも、高千穂町自体が閑散としているわけではない。観光地として名高い高千穂峡(真名井の滝で知られる)はもちろん、山奥に位置する天岩戸神社も、観光バスが何台も止まり、ツアー客がぞろぞろと境内に入っていくほど大賑わいだった。

 天岩戸といえば、アマテラスが引きこもったとされる洞窟である。それを踏まえてか、近くには「あまてらすの隠れテラス」なる休憩所があった。

天岩戸神社近くの「あまてらすの隠れテラス」

 もっとも、ここまで足を運ぶ観光客なので、引きこもり知らず。軽く休んで、ぐいぐいとつぎの場所に進んでいく。そして会話といえば、パワースポット、スピリチュアル、インスタ映え。まさにたくましい現代消費者の姿だった。

 日本神話というと、都市部では、とかく愛国を標榜する怪しげな商売のネタになりがちである。だが、ここ宮崎では、そんな陰険な雰囲気はない。南国気分の海岸に、神秘的な渓谷。観光地として良質だから、ことさらにいかがわしいアピールをする必要がないのだろう。

高千穂峡。左の滝が、真名井の滝

 たしかに、天岩戸神社の鳥居近くには「日本の政治は日本人の心で」などという古びた看板が立てられていた。ただ、その近くには「超古代史の郷 天岩戸神社」などという真新しい看板も掲げられていた。いうまでもなく、超古代とは、ムー大陸やアトランティス大陸など、オカルト的な文脈で使われる言葉だ。

 ようするに、ざっくりしているのである。適度にいい加減で、ぼんやりした神話観光。それは神話や歴史以上のものが混ざり合い、予想以上にカオスだった。神経質に「神話を史実のごとく解説するのはけしからん」といちいち批判するのも結構だけれども、ことここにいたっては、むしろこの混沌ぶりを「自覚的に」楽しんだほうがよい。

 そのなかで、あまりに自由自在な案内板や展示を読み解き、「あ、これは少なくとも史実ではないな……」と考えるにいたる。景勝地がその圧倒的な魅力で人々を吸引する現実の前では、それに期待をかけるほかないのではないだろうか。

■参考文献
「八紘一宇」の塔を考える会(編著)『新編 石の証言』改訂版、鉱脈社、2017年。
宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会(編著)『ひむか神話伝説 全212話』補訂5刷、鉱脈社、2018年。

写真=辻田真佐憲

即位の礼に合わせて「天皇家の故郷」を観光したら、予想以上にカオスだった

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー