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「絶対にまばたきできない時間」

――飯田2曹ほどの練達者になれば、まばたきゼロなんてことも……。

「いやいや、さすがに(笑)。1度だけ、自衛隊音楽まつり祭の儀仗で1回もまばたきしないでやり抜いたこともありますが、普段はどうしても3~5回とか、してしまいます。ただ、目の前を総理や国賓の方が通る、これを巡閲と呼びますが、この巡閲のときだけは絶対まばたきできませんからね」

目の前を総理や国賓が通るときはまばたきもできない

――注目度の高い国賓でしたら、テレビカメラなどが来ていることもありますしね。

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「万が一まばたきでもしようものなら、それがバッチリカメラに抜かれてしまう。そんなことは許されませんし、自分も特別儀仗隊としてのプライドがあります。ただですね、まばたきばかりを意識しても身体が前に傾いたり、他のところに影響が出てしまう。身体の動きも含めて、すべて無意識のうちに意識するというのでしょうか……。そのレベルまで練度を高めておかなければいけないんです」

銃剣の高さをチェック

雪が降る羽田空港で50分待ち続けたことも……

――つまり身体で覚える、身体に染み込ませるということですか。それもミリ単位で。肉体的にはもちろんですが、精神的にもかなり厳しい任務なのだろうと想像できます。それに外で行うことも多いでしょうから、暑さ寒さも影響しそうですし。

「暑いのはキツイですね……。羽田空港だと周囲に日差しを遮るものが何もないからもう暑くて暑くて。そういうところに20分、30分と立っていると……。でも耐えるしかないですから。頑張れ、頑張れ、と自分に言い聞かせて(笑)。羽田空港と言えば、自分がまだ陸士だったときに真冬の羽田で儀仗があったんです。そのときは雪が降っていたんですよね。で、50分くらい“整列休め”の状況で待ち続けて。もう手の感覚なんて完全に麻痺しちゃいましてね。銃を持っているんですけど、その感覚もまったくない。“捧げ銃”の号令がかかっても、もうほとんど感覚がないからうまくできなかった。それが唯一、捧げ銃がうまくできなったという苦い経験かもしれないです」

 

――そうした状況でも完璧な儀仗をしないといけないわけですよね。いや……ちょっと想像できない世界です。

「今まで100%の儀仗をしたという経験は一度もありません。訓練でもそうですね。もちろん見ている人にもわからない程度ですけど、それでもわずかに捧げ銃で銃が動いたかなとか。究極は精密機械のように動くこと。私たちも人間ですから難しいんですが、だからこそ究極を目指していく。技量を維持するのではなくて、常に向上ですよね。まあ、私ももう40歳を超えましたから肉体的な衰え、反射神経とかも若い頃と比べると劣ってきているのかなあと。プライドもあるから自分ではそんなはずはないと思っているんですけど(笑)」