思い入れが強すぎて冷静に書けないと思っていた
――まずは『コンビニ人間』(2016年文藝春秋刊)の芥川賞受賞おめでとうございます。主人公は長年にわたりコンビニエンスストアでのアルバイトをしている古倉恵子。本人はその生活に満足しているのに周囲から「30代後半で未婚・アルバイト」という点を心配されて居心地の悪さを感じています。村田さんご自身も長年コンビニでアルバイトしている点も注目されていますが、まずは受賞の実感を。
村田 少しずつ、夢ではないんだな、って思えてきました(笑)。自分がコンビニ店員であることをこんなに言われると思っていなかったので、受賞前のインタビューでもコンビニ店員についての話を熱く語っていたんです。
――これまでもコンビニでアルバイトする人って書いていますよね。
村田 はい、出てきているんです。でも、ちゃんと舞台にしたのははじめてです。自分にとってコンビニは社会との接点、世界への扉みたいなものなので、思い入れが強すぎて冷静には書けないだろうと思っていたので。
――では、なぜ今回舞台にすることを選ばれたのでしょうか。
村田 最初から、今回はリアルなものを書こうと決めていたんです。最近は『殺人出産』(14年講談社刊)や『消滅世界』(15年河出書房新社刊)のような変わった設定のものを書いていましたが、そうではなくて普通の世界の話で、できればそこにヘンテコなものを取り入れたいなと(笑)。『しろいろの街の、その骨の体温の』(12年刊/のち朝日文庫)のようなリアルなものに、ヘンテコさを融合させることがいつかできたらいいなと思っていたんです。『コンビニ人間』でそれができたかはさておき、融合させたいとはずっと思っていました。
最初に書き始めたときはオタクな女の子が主人公の話を書こうとしたんです。でも、担当編集者の浅井さんと、「それは『消滅世界』とかぶるかもしれないな」という話をして。「でも書きたいから書いてみるので、もしもかぶっていたら言ってください」と言って書いて途中稿を見せたら「かぶってます」と言われるという、すごく正直な会話がありました(笑)。なかなかうまくいかず、急にある日、それを全部捨てて、コンビニを舞台にしたものを書こうと思ったんですね。それで、書いて送ったら「これいいと思います」と言われました。
――満を持して書いた、というわけではなくて思わず書いてしまった、という感じだったんですね。
村田 そうですね。いつかは書こうと思っていたんですが、それは自分がコンビニを辞めてからなのかなと思っていました。コンビニ店員として現役中に書くとは思っていなかったです。
――主人公はバイト中、シフトやマニュアルにのっとって要領よくテキパキ動くし、ハキハキ話す。村田さんもこんな感じなのかなあと思いましたが。
村田 主人公はだいぶ真面目です。私はぼーっとしていて、たぶん周りには「年数を重ねているわりにはおとぼけな店員だな」と思われています(笑)。自分がそこまで頑張りきれていないので、主人公は理想の店員として書きました。お店自体、自分が店長だったらこんなお店にしてみたいという、ある意味理想のお店を作りました。