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私にとって、コンビニは世界への扉でした――村田沙耶香(1)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/10/01

genre : エンタメ, 読書

note

「村田さんがニュースに出ていて笑った」「普通にすげー」(笑)

――コンビニで働いているとお客さんから「ありがとう」と言われたりして、それが嬉しいということも前におっしゃっていましたよね。

村田 そうなんです。もともと何をやらせても不器用で、家族からも「沙耶香は社会に出られるんだろうか」と言われていた時期もあったんです。性格が不器用というのもあるんですけれど、ものすごく内気で人見知りで、学校生活でも明るい子に話しかけてもらって輪に入れてもらって、なんとかやれていたんです。学校はそれでもいいんですけれど、社会でやっていけるのかという不安は自分の中にもありました。それでアルバイトがしてみたくて、学生時代にたまたま近所にコンビニが建ったのでアルバイトを始めたんです。前からある店舗のすでにできあがっている人間関係の中に入っていくよりは、オープニングスタッフとしてみんなが初対面のなかに入っていくほうがハードルが低い気がしたんですね。それでやってみたら友達もできたし、マニュアルを読み込んだり研修を受けたりしていたら「頑張ってるね」と声をかけてもらったりして。それまでは恋人以外の男の子とはあまり会話できない性格だったんですが、コンビニの仕事は性別の違いがない世界なので、男の子ともすごくフランクに喋れたりして。いろんな意味で世界に溶け込めた気がしました。だからコンビニにはすごく感謝しています。

――最初にアルバイトしたお店の人たちがいい人たちだったんでしょうね。

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村田 のんびりしていて、いい人たちだったんですよね。いまだに付き合いがあります。結婚している人もいない人もいるんですけれど、たまに6人くらいで集まって飲んだりしています。

――じゃあ『コンビニ人間』での受賞は喜んでくれたんじゃないですか。

村田 LINEのグループで「村田さんがニュースに出ていて笑った」って。「普通にすげー」って(笑)。みんなが読んでくれたら嬉しいです。

――『ギンイロノウタ』(08年刊/のち新潮文庫)で野間文芸新人賞を受賞し、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞を受賞し、今回芥川賞を受賞。この三賞をすべて受賞されている方は少ないですよね。

ギンイロノウタ (新潮文庫)

村田 沙耶香(著)

新潮社
2013年12月24日 発売

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村田 すごく嬉しいです。やっぱりデビューした時の新人賞も含めてどの賞も嬉しいのですが、芥川賞は宮原昭夫先生が受賞されたのと同じ賞ということで、感慨深いものがあります。

――村田さんは学生の頃に宮原さんの文学学校に通って小説を書いていたんですよね。そのお話もおうかがいしたいのですが、そもそも小説を書き始めたのは、もっと小さい頃ですよね。

村田 最初は小3か小4です。学校で、紙を四つ折りにしてホッチキスで留めて、漫画が得意な子は漫画を描き、私は小説を書いたり漫画を描いたりして雑誌を作って、友達同士で交換していました。そういうのが流行っていたんですよね。その後、友達と交換するだけじゃなくて、誰にも見せない、自分用のものも書くようになっていきました。

 書いていたのはすごくベタなお話です。双子の女の子がバラバラに引き取られて、一人はお金持ちの家に行って、もう一人は貧乏で……というような、どこかで読んだことのあるような話を書いていました(笑)。

 ルーズリーフを横にして縦書きで書いていたのは五つ子の姉妹の話で、サヤカとサヤミとサヤエとサヤルとサヤコという、ひどいネーミングセンスの五人の話で(笑)。顔がまったく同じだけど、この子は着ている服がMILKで気が強くて、この子はNICE CLAUPが好きでなんかモテる、この子は丸文字だとか、この子はこういう歩き方で、とか設定を考えるのがすごく好きでした。サヤコはぴょこぴょこ歩いて、サヤミはすっすと歩くとか、設定はやたらと入り組んでいました。それを五つ子シリーズとして1話完結で何話か書きました。その小説がたぶん、一番最初に書きあげた小説だと思います。