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私にとって、コンビニは世界への扉でした――村田沙耶香(1)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2016/10/01

genre : エンタメ, 読書

自分が持っているグロテスクさも書いた

――主人公はコンビニ店員としては理想形。では、人間としては?

村田 人間としては、ちょっといびつなところがあるかなと思います。誰にも迷惑はかけていないのに、なんとなく指摘されてしまう人。ただ単に36歳で、恋愛経験がなくて、コンビニ店員で、アルバイトで働いているというだけなのに「ちゃんと就職しなよ」とか言われてしまう人。たとえば『殺人出産』で人を殺してもいい世界を書きましたけれど、殺人といった極端なものではなく、でも誰もがつい何かを言ってしまう、それくらいのいびつさの設定の人にしたいなと思っていました。

――人は自分とは違う価値観で生きている人に対して「えっ? 大丈夫?」などと上からの目線を投げがちですよね。

村田 そうですね。主人公の場合、保障がないという余計な不安がそうさせるのかもしれない。自分自身も、「社員にならないのかな」などと思ってしまう側に回ってしまう危うさがある気がします。そういう、自分が持っているグロテスクさも含めて書いた気がします。

――周りの人は、就職するとか結婚するとか子どもを産むといったマニュアルを重んじている。一方で主人公はコンビニ店員としてのマニュアルを重んじているという対照性があるのかなとも感じました。

村田 確かにそうですね。コンビニ店員のマニュアルってすごく不思議です。コンビニにいる間は店員としては普通に見えるけれど、そのマニュアルだけでは人間として普通だというふうに見なされるようにはなかなかなれない。でも、マニュアルの心地よさみたいなものは、自分自身の中にもある気がします。それをちょっと極端な形にして、主人公に移植してみたかったんだと思います。

――そこに新人バイトとして白羽さんという青年が入ってきます。彼の人物造形は相当笑えますね。バイトの目的は「婚活」だと言ってのけ、でも仕事はやる気なし、なにかというとすぐ「縄文時代から人間は……」という。

村田 思いがけないところで婚活をしている人の話を聞いたことがあったので、それが頭にあったのかもしれません。自分でも、コンビニで婚活、と書いた時は思わず笑ってしまいました。

 最初は、自分がひねくれた男の子だったら、世界に対する違和感についてこんなふうに思ったり言ったりするかもしれない、という想像がありました。なんか不公平だとか、なんで童貞じゃいけないんだとか。主人公のような人はそれを素朴な疑問に感じていますが、白羽さんにはもっと、世界を攻撃しようとする性格の悪さがあります。自分も、今がいいわけじゃないけれど、世の中をすごくひねて見ていたら、こういうことを言ったりしていたかもしれません。だから白羽さんのことはあまり嫌いじゃないんです。本当に嫌な人だなと思うんですけれど、書いている時は愛おしかったというか。ひどいことを言ったり、女の人を差別しているわりに、自分にとって都合のいい時は男女平等を言い出すような、そういう性格の悪さを書くのがすごく楽しかったです(笑)。

瀧井朝世

――それで主人公とちぐはぐなやりとりになるのかなと思ったら、意外な展開になる。彼女は白羽さんに「私と婚姻届を出すのはどうですかと言い、お金のない白羽さんはそれを受け入れ、まずは恋愛関係ではない同居生活が始まるんですよね。

村田 世の中の結婚とか出産というマニュアルに従おうとした時に主人公がそういうことを言い出すのは、自分の中では自然な流れでした。この無茶な持ち掛けに乗ってくれそうな変な人という意味では、白羽さんは相性もピッタリというか(笑)、変な意味で二人はカチッと合うような感じがしました。それに、白羽さんが主人公に寄生する感じがなんだかいいなと思って(笑)。絶対に働きたくないといって誰かに寄生して生きていくのって、逆に大変なことだと思うんですけれども、白羽さんはそれを頑張ってやろうとしている。なんだかすごくヘンテコだけど、そういう欲望がある人間の可愛さみたいなものも感じていました。