バイトが入っている日のほうが執筆が進みます
――この二人の関係がどう変化していくのかは、書き進めながら見えてきた感じですか。
村田 そうですね。そもそも二人が一緒に暮らすというのも全然決めないで書いていたんです。最初は主人公が押していたと思うんですけれど、だんだん白羽さんのほうが主人公を高圧的な態度でコントロールしようとしてくる、というのも決めていなくて、自分でも「こうなるのか」と思いながら書いていました。
でも、ラストはスーッと決まったんです。やっぱり勝ってほしかったんですよね、主人公には。そういう意味では自分の中では気持ちのいいラストです。
――ご自身にとっての聖域でもあるコンビニを舞台にして書き切ったのは、大きな執筆体験でしたか。
村田 そうです、大きい経験だと思います。私は冷静な目でコンビニを見られないと思っていたので。最初は地の文でもお客さんのことを「客」と書けなくて、全部「お客様」になっていたんです。編集さんに「直したほうがいいんじゃないですか」と言われ、確かに読みづらいなと思ったんですけれど、でも「客」って言っていいんだろうかと、葛藤がありました。結局ラスト以外は「客」にしたんですが、そういうところが他にもたくさんありました。
――村田さんも実際に大学生時代から、途中でブランクはあるもののコンビニでアルバイトしてきたわけですよね。
村田 そうです。大学1、2年生の頃から始めましたが、私は暇そうな店を選んでいるせいか、アルバイトしている店が閉店することも結構あるんです。それで他の店長に呼ばれたり、ファミレスで働いてみたり、これを機に専業作家としてやってみようかなと思って執筆が全然進まなくてまたコンビニで働いたり、ということを繰り返していました。
――コンビニで働いていたほうが執筆が進むそうですね。
村田 そうです。週3日働いているんですが、バイトが入っている日のほうが執筆も進むんです。だから編集さんに「もっとバイトの日を増やしてください」と言われてしまって(笑)。
アルバイトが入っていない日は、家にいてもさぼってしまうんです。家だとゴロゴロしながら空想に没頭してしまうんですが、それは小説を書くこととは全然違っていて。自分の中では小説を書くことはすごく現実的な行為で、ゴロゴロして空想している状態ってリアルとは程遠い状態なんですよね。だからコンビニで働いて、強制的にリアルな世界に自分を連れていかないと駄目なんです。コンビニがない日も英会話を入れたり、外で打ち合わせをしたり、お医者さんを入れたり、カフェで書いてみたりと、無理やり外に行く用事を作っています。身体を外に持っていけば仕事をするんです。
――あれ、前に自宅とは別にお仕事場を持っていましたよね。
村田 持っていました。仕事場があればもっと仕事をするんじゃないかと思って。でも、仕事の机とパソコンと、本が多少あるくらいの簡素な部屋で、あの部屋が待ってて小説を書かなきゃいけないと思うと、なんか出社拒否みたいになってしまって。前の道を通るのも辛い感じになってしまい、結局引き払いました。安い部屋だったんですけれど、あれは人生最大の無駄遣いでした。でも仕事部屋が向いていないということが分かってよかったです。