及川拓馬六段と上田初美女流四段が、「棋士」と「女流棋士」のご夫婦であることは、「観る将ファン」のあいだでも、よく知られたことだろう。
ファンにとってお馴染みのお二人には、現在3歳と1歳の娘さんがいる。上田さんが育児の様子をツイッターなどで発信して、及川さんも原稿のなかで娘さんたちについて触れていることもあって、その子育てぶりにも関心を持つ人も少なくないだろう。
そこで今回のインタビューでは夫婦揃ってご登場いただき、その馴れ初めから棋士夫婦の日常、将棋や子供たちへの想いなどをお聞きした。
まずは、お二人の出会いから話を進めよう。及川拓馬六段と上田女流四段は、共に師匠が伊藤果八段といういわゆる「同門」である。となると、幼い頃から切磋琢磨するうちに恋が芽生え……という展開を想像してしまうが、どうもそうではないようだ。
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及川 私が小学4年生で師匠の教室に通い出したときに、彼女も同じ教室に来ていました。ただ、その存在を知っていましたが、話したこともないですし、フルネームも知りませんでした。もちろん将棋も指したことはありません。なんか「やんちゃな子がいるなぁ」という感じでしたね。
――やんちゃというのは、上田さんが……?
上田 将棋を指しているとき以外は、ずっと走り回っている子でしたので(笑)。
及川 私はずっと座っている感じだったので、タイプが違うなぁと思っていました。
二人が再び出会ったのは……
このようにお互いの存在を知る程度だったというのが最初の「出会い」。その後、師匠の教室が開催されなくなったこともあり、二人はその後しばらく会うこともなかったという。
二人の歩みを簡単に説明すると、小学校4年で師匠の教室に入った及川さんは、小学5年生で奨励会試験を受けて合格。20歳でプロになったので、およそ10年間の奨励会時代を過ごしたことになる。
一方、上田さんは5歳で将棋を始めて、史上最年少の7歳で女流棋士の養成機関とされた「女流育成会」に入会。その後、師匠の教室に通うようになり、12歳という若さで女流棋士になった。
そんな二人が再び出会うのは、及川さんが18歳で、上田さんが17歳のとき。元奨励会三段であり、現在「将棋講師」として漫画監修なども手掛ける鈴木肇さんの誘いがきっかけだったという。
「女流棋士がこんなに指せると思わなかった」
及川 鈴木くんが「将棋やろうぜ」って誘ってくれたんですよ。そしたら、そこに彼女がいて。
上田 私はそのとき高校生で、ちょうど模試の日でした。模試なら行かなくてもいいかなと、指定された両国の将棋センターに向かったんですよね。
及川 そのとき初めて将棋指したんじゃなかったっけ?
上田 そう、初手合い。私が勝ったと思うんですよね。
及川 そうだっけ? 勝った?
上田 対局の終わりに「女流棋士がこんなに指せると思わなかった」という捨て台詞を言いました(笑)。