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特集観る将棋、読む将棋

2019/10/31

上田さんのほうが知名度が上だった

――2011年にタイトルを取られて、翌年は防衛するも2013年に失冠。この年に結婚されたんですね。

上田 タイトルを失うというマイナスのことがあった後、結婚というプラスのことがあってよかったねと、励ましてもらったのを覚えています。

――結婚されるときは、タイトルを取られていたこともあり、上田さんのほうが知名度もあったとか。

及川 今でもそうですけどね(笑)。結婚する前、師匠に「結婚するんだったら、妻のほうに注目が集まったときの気持ちの持ちようとか、振る舞いは大変だけど、それでもいいのか?」って言われたんですよ。そのときは、よくわかっていなかったから「はい」と軽い感じで答えましたが、結婚してから実感することはありますね。

 

――上田さんは、師匠には何も言われませんでした?

上田 ええ何も(笑)。

いつまで待っても来ないんですよ

 お二人が結婚した2013年は、及川さんにとって、プロになったとか、タイトルをとったとか、そういった特別な年ではない。結婚するときには、何か「きっかけ」を求める人もいるが、そういったものはなかったのだろうか。

及川 19歳の頃から6年くらい付き合っていて、まあ、そろそろかなという気持ちはあったんですけど……。

上田 いつまで待っても来ないんですよ。

――そんななか、なにかきっかけになったことはありますか。

及川 米長会長(故・米長邦雄永世棋聖。当時、日本将棋連盟会長だった)に「インタビューするから自宅に来てくれ」と呼ばれたんですよ。

上田 会長が週刊誌で連載されていた、米長節で棋士を紹介する記事ですね。

及川 そう。それで伺ったら「結婚しないのか?」って聞かれたんですよ。会長って誰と誰が付き合っているとか、そういう話題が好きで詳しいんですよ。それでも「いやぁ」とか返事を濁していたら、「君、早く結婚しないと何があるかわからないぞ」「ゴールしちゃえ」って、言われたんです。ですから、まあそれがきっかけということで(笑)。

 

「将棋と恋とは、よく似ていてな」

 米長会長宅で受けたインタビューは『週刊現代』で連載されていた「名棋士今昔物語」というもので、これをまとめた単行本が『将棋の天才たち』というタイトルで出ていることがわかった。手に入れることができたので、当該箇所と思われるところを引用してみよう。

《及川は今年の7月になって、家を出て独立した。「25歳だから一人暮らしをする気になった」というが、及川には恋人がいるらしいという噂もある。この辺りをズバリ聞いてみた。「そんなことも書くんですか」と驚いていたが、それがインタビューの骨子というものだ。数年前から付き合っている彼女がいて、6年越しの恋とか。「そろそろ決断しようかと思っています」と言ったので、私はこう先輩からの教訓をたれた。

「将棋と恋とは、よく似ていてな。いつでも詰ませられると思っていると、そういう訳にもいかないんだよ。詰ませられるときにキッパリと決めないと、勝ちを逃すケースがままあるからなぁ」

 その彼女のどこが気に入り、どこが好きなのかと問うたら「さっぱりしているところです」とな。たまにはケンカもするのかと思ったら、一度もないらしい。幸せとはこういうものかと思うほど、彼女の話をするときの及川はうれしそうだった》(『将棋の天才たち』米長邦雄・著/講談社/P227より)

 みなさんも米長会長の前で、たじたじになっている及川六段の顔が目に浮かんだのではないだろうか。

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