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連載この鉄道がすごい

貨物線再利用 門司港レトロ観光線の意外なコスト削減は「レール切断」にあった

レトロ地区から海峡へ、回遊ルートを担うトロッコ列車「潮風号」

2019/11/17

genre : ライフ, , 社会, 経済

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この線路、もともと臨港貨物線だった

 北九州市はこれらの建物を観光資源と捉え、1995年までに門司港レトロ地区として整備した。ところが、潮風号の線路はレトロ地区からすぐに遠ざかる。1つ目の駅、出光美術館駅のそばには未来的な高層マンションがそびえ立ち、その31階は展望室として観光客も入れる。

 そこから先の線路際は近代的な総合病院や集合住宅、倉庫が続く。レトロ観光の表舞台に対して、なんとなく裏通りの印象だ。じつはこの線路、もともと臨港貨物線だった。門司港駅から門司埼をめぐって瀬戸内寄りの田野浦までを結んでいた。門司港はかなり広い港なのだ。

 

 総合病院の広い駐車場が終わると、小さな港が現れる。釣り船やレジャーボートなどの小型船舶がズラリと並んで海沿いの雰囲気になった。進行方向を見上げると関門橋、その先は山口県の下関だ。関門橋の下に見えるあたりが壇ノ浦。源平合戦や馬関戦争で知られているところ。もうちょっと海を眺めていたいと思ったところで、2つめのノーフォーク広場駅に停車。ここを発車すると列車は岬を短絡するトンネルに入る。

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とつぜん、海底のような幻想世界に突入

 このトンネルでちょっとした仕掛けがある。トロッコ客車の天井がブラックライトで照らされて、蛍光塗料で描かれた魚たちが現れる。乗客たちはとつぜん、海底のような幻想世界に突入する。ほんの短いトンネルだけど、この演出があるから10分の乗車がまとまる。出発、海、トンネル、到着で「起承転結」だ。

 

 関門海峡めかり駅前には、銀色の電気機関車「EF30」が保存展示されている。関門トンネル専用機として1960(昭和35)年に製造された。銀色の理由は塩害対策でステンレス製の車体を採用したからだ。これに同時代に活躍した茶色の古い客車「オハフ33」をくっつけて、カフェとして営業している。焼きたてのソーセージとラムネ、お祭りの屋台みたいな組み合わせで休憩する。

カフェとして営業しているEF30とオハフ33

 ここまで来たら、関門海峡を歩いて渡ろう。関門海峡めかり駅から海沿いにのんびり歩いて10分ほどで「関門トンネル人道入口」だ。なんと、歩いて通れる海底トンネルである。トンネルの途中に県境があり、通り抜けた先は壇ノ浦古戦場である。さらに足を伸ばして火の山ロープウェイに乗ると、関門海峡を見下ろす公園がある。じつはここ、関門海峡の国防施設、下関要塞だった。現在も遺構がたくさん残っている。

下関要塞の遺構 ©杉山淳一