「『ありがとう!』。最近、街を歩いていると見ず知らずの方から、そう声をかけられることが多くあります。2015年、前回のワールドカップで南アフリカに勝ったあとは、ファンの方々から『おめでとう』と言われることが多かった。『おめでとう』と『ありがとう』。どちらも嬉しい言葉ですが、『ありがとう』の方がより自分たちのことと重ねて見てもらえたのかなという気がします。皆さんがそれだけ感動してくれることを自分たちが成し遂げたんだ、と思うと誇らしいし、日本のラグビーがそこまで来られたことが本当に嬉しいです」

 

「俺が死んだら、いい人見つけてな」

 こう語るのは、ラグビー日本代表スクラムハーフの田中史朗選手。バックス陣最年長の34歳、身長166センチ、体重72キロとラグビー選手としては小さな体で、代表をけん引した田中選手は発売中の「文藝春秋」12月号で3大会連続での出場となったラグビーW杯2019の「秘話」を明かしている。アジア初開催となった今大会。日本代表は格上とみられたアイルランド、スコットランドを撃破し、予選プールを4戦全勝で突破、史上初のベスト8進出を果たした。

田中史朗選手 ©文藝春秋

「今大会、代表の最終メンバーに選ばれるかどうかは、自分でも最後までわかりませんでした。正直、もう難しいのかなと思う時もありましたけど、『諦めちゃダメ』と言い続けてくれたのは、ウチの嫁さんです(元バドミントン選手の智美さん)。

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 結婚したときから、嫁さんには『俺が死んだら、いい人見つけてな』と言っていたのですが、今回のW杯が始まる前に、改めてそう伝えました。身長2メートル、体重100キロ以上の、トラックみたいな海外の選手が、僕みたいな小っちゃいおっさんに突進して来るんですから、怖いと言えば怖いんですよ(笑)」

 

アイルランド戦で感じた「これはいける」

 ヘッドコーチのジェイミー・ジョセフ氏が掲げたチームテーマ「ONE TEAM」は流行語にもなった。田中選手が「チームが本当のワンチームとなった」と感じたのは予選プール2試合目のアイルランド戦だった。