動物を「妻」や「夫」と呼び、ともに生きる人々がいる。動物を文字通り”伴侶”として選び、生活を共にするだけでなく、時にセックスをすることもある。彼らは精神医学の分野で「ズーフィリア(動物性愛)」という呼称で分類されていることから、自らを「ズー」と名乗るのだという。

 そんなズーたちを2016年6月末から学術調査しまとめた単行本「聖なるズー」(集英社)が、今年「第17回開高健ノンフィクション賞」を受賞した。著者は京都大学大学院博士課程文化人類学でセクシュアリティについて研究をしている濱野ちひろさんだ。

 ズーとは一体何を考え、どんな生活をしている人々なのか。謎深きズーについて、著者である濱野ちひろさんに話を聞いた。

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濱野ちひろさん ©文藝春秋

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「ズーフィリア(動物性愛)」とは?

――著書ではじめて「動物性愛」という言葉を知り、衝撃を受けました。まず、動物性愛について説明いただけますか?

濱野 普通に生活しているとなかなか出会わない言葉ですよね(笑)。極々簡単にいってしまうと、動物を愛し、時に性行為をする人々のことです。

 もともとは、動物との性行為は普通ではない性行為とされ、すべて“獣姦”と呼ばれていました。歴史的に見ても多くの地域で禁止されています。19世紀末に精神医学者であるリヒャルト・フォン・クラフト=エビングが動物に対して性的なフェティシズムを持つ人々について、“動物性愛(ズーフィリア)”という用語で説明するようになりました。

――ズーフィリアは動物に欲情する“精神病”だとみられているんですか?

濱野 彼らは動物に性的興奮を覚え、そして恋人のような愛着を感じる。“普通の人”からすると“アブノーマル”ですよね。精神医学的見地からは、性的倒錯として語られてきました。しかし最近では同性愛のように性的指向のひとつだとする性科学・心理学的見地からも研究され始めています。

濱野ちひろ著「聖なるズー」(集英社)

――動物への性愛……。なかなか想像しにくい感情ですね。

濱野 私も研究を始めた当初は驚きました。子供の頃にメス犬を飼っていましたが、彼女に性的欲求を感じたことは一度もありませんでしたから。でも現実にそういう人々が存在している。

 ドイツには「ZETA(ゼータ)」という、世界唯一の動物性愛者の団体があります。動物性愛への理解促進や、動物虐待防止の取り組みなどについての情報発信を行っています。