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「僕の初恋は近所に住んでいたオス犬だった」開高健ノンフィクション賞受賞作家が語る“動物性愛”の世界

「僕の初恋は近所に住んでいたオス犬だった」開高健ノンフィクション賞受賞作家が語る“動物性愛”の世界

source : 週刊文春デジタル

genre : エンタメ, 読書, 社会, 国際

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オス犬に指を舐められ「これまでに感じたことがない衝撃が走った」

――ドイツにはズーが多いんですか?

濱野 多いというよりも、可視化されつつあるということだと思います。どこの国にもズーはいると思います。著書に詳しく書いていますが、日本人のズーにも出会いました。でも、多くの人が「動物性愛」という言葉すら知らないので、自分がズーだと自認できていないんです。一方、ドイツではズーたちが自分は動物性愛者だと自覚して、ズー同士でコミュニティを作っている。少数ですが、ズーであることを公に表明している人もいます。実はドイツには性に革新的でオープンな雰囲気があって、それがズーたちにも影響しているんだと思います。

 
「ドイツに到着してすぐ一杯! やっぱりベルリンではベルリナーキンドルが定番」(濱野さん)

――何人のズーと会ったのですか?

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濱野 私がドイツで出会ったのは22人です。そのうち男性が19人、女性が3人。全員のうち2人はチャットでしか話していないのであまり情報がありません。その2人を除いた20人のうち「生まれつきズーだ」と答えたのは12人で、すべて男性でした。

――生まれてこの方人間に性欲を感じたことはないけれど、動物には性欲がわくと。

濱野 そういう人もいます。私が初めて出会ったズーはそうでした。彼も「生まれつきズーだ」と言っていました。ミヒャエルという、メスのジャーマンシェパードの“妻”を持つドイツ人男性です。彼が動物性愛者であることに気づいたのは13歳のとき。きっかけは、近所に住んでいたオス犬に指を舐められたことだったそうです。『これまでに感じたことがない衝撃が走った』と教えてくれました。

――そこに身体的な変化もあった。

濱野 そうですね。「身体的にも感情的にも何かが爆発するのを感じた」「泣きそうで、息がぜえぜえ上がった。興奮やら、愛のような感情やら……」と。

ベルリン・ハーゼンハイデ国民公園。「ここでミヒャエルと語り合いました」(濱野さん)

“ズー・ゲイ”などセクシュアリティの多様性がズーの社会にも

――衝撃的な初恋だったわけですね。

濱野 ただ相手がクラスメイトの女の子ではなく、犬だった。ミヒャエルは、自分は「アブノーマル」なんだと、うつ病を発症するまで追い詰められてしまったそうです。カウンセリングに行ったり、セックス・ワーカーを訪ねたり、人間の女性と結婚したこともあったそうですが、動物への愛がなくなることはなかった。元妻との離婚後、オス犬のパートナーを得て、初めて動物とセックスをしたそうです。

――同性の動物がパートナーになることも多いのですか?

濱野 動物性愛者以外の人と同様に、ズーにも様々な性的指向の人がいます。私が出会ったとき、ミヒャエルはメス犬がパートナーでしたが、生来的にはオスの動物に魅力を感じる “ズー・ゲイ”。女性とメス同士の場合は“ズー・レズビアン”と呼ばれます。動物しか愛さない人もいれば、人間と動物両方が恋愛対象の人もいます。LGBTs同様、セクシュアリティの多様性がズーの社会にもあるんです。