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「なぜ人はエセ科学的に惹かれるのだろう」トンデモ医療ブームなかであえて作家が書いたこと

本物の科学は人を救う――似非科学ブームのなかで作家がどうしても伝えたかったこと

2019/11/29
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――〈理研、信頼失墜に拍車 不正問題が拡大〉といった見出しが、新聞に載りました。

 科学者も間違えるんだ、頭のいい人たちでも騙されることがあるんだ、という心細さはあの時からずっと私の中にあります。科学への信頼が失墜したことと、似非科学が攻勢を強めて来たことに関係がないとは言えません

©iStock.com

〈本物の科学は人を救う〉と信じている

――科学の本当の面白さを伝える人が必要だ、ともおっしゃってますね。

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朱野​ 私は幸運にも中学の理科の先生に恵まれました。植物の生殖、蛙の生殖の次に、その先生は「次は人間の生殖をやります」と言い出し、精子が卵子に辿り着くまでの映像を見せてくれました。荒れ気味のクラスもあるような中学でしたが、誰も冷かさずに見ました。生命誕生の瞬間を見た感動から、家に帰って「僕は2億匹の精子の競争に勝ったんだ」といきなり言って、母親を硬直させた男子もいたらしいです。

 先生はその流れで避妊の知識を教えてくれ、皆ノートにメモしました。今思えば先生は学校教育で行われていた男女別室の性教育に疑問を持っていたのでしょう。そのおかげで私は生命科学に興味を持ち、妊娠出産に関する情報リテラシーをも持つことができました。

 科学教育を受けていれば絶対に騙されない、ということはないと思います。私もその後何度も騙されたり、無自覚に騙す側に立ったりもしました。だから考えてしまいます。

 似非科学商品が蔓延るのはメーカーのせいなのか。それに騙されてしまう人たちのせいなのか。科学者でさえも偽物の科学に騙されてしまうのはなぜなのか。

 その問いに逃げずに向き合うことが、もしかしたら真の科学的思考であり、その努力を続ける人が身近にいたならば、人生の大事な局面で似非科学の方へ行かなくてもすむ人もいるかもしれません。

〈本物の科学は人を救う〉と私は信じています。 

朱野帰子(あけの・かえるこ)
東京生まれ。2009年、『マタタビ潔子の猫魂』で第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、デビュー。13年、『駅物語』がヒット。15年、『海に降る』が連続ドラマ化。19年、まったく新しいお仕事小説『わたし、定時で帰ります。』が連続ドラマ化され、大きな話題となる。その他の著書に『超聴覚者 七川小春 真実への潜入』『真壁家の相続』『対岸の家事』『会社を綴る人』『くらやみガールズトーク』『わたし、定時で帰ります。ハイパー』などがあ

「なぜ人はエセ科学的に惹かれるのだろう」トンデモ医療ブームなかであえて作家が書いたこと

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