アナグラムの作り方は、至ってシンプルである。何か一つある程度の長さがある言葉を持ってきて、その中から意味の成立する単語として抜き出せるものを選び、残りの文字をなんとか組み合わせて、出来上がり。一つ例をあげてみよう。
桐島、部活やめるってよ
言わずと知れた朝井リョウの小説のタイトルだが、わかりやすくするためにとりあえずこれを全部ひらがなにひらいてみる。
きりしまぶかつやめるってよ
さて、あなたはこの中から何個「意味のある単語」を見つけることができただろうか? 「破る」「〆切」「つぶやき」「歌舞伎」「捕まる」「しっかり」……結構見つかるものである。短いものでも、「嫁」とか「鶴」とか「カリブ」とか抜き出せる。それでは、ここから試しに「〆切(しめきり)」を削ってしまおう。
まぶかつやるってよ
真っ先に「ブルマ」を発見してしまった自分が嫌になるが、とりあえずさっきピックアップしたものでは「破る」と「捕まる」がまだ残っていることに気付く。でも残りの「る」は一つだけなので、どちらに「る」を使うかを選ばなくてはいけない。しかしよく見てみると「って」も残っているので、「破って」「捕まって」という接続の仕方もできるわけなのだ。
パターン1 「破る」を採用する場合
「しめきり」「やぶる」が消えるので、残りは「まかつってよ」。となれば当然「捕まってよ」が導き出される。「破る」は「〆切」に接続させないと意味が通じにくい。語順を整えてみると「捕まって〆切破るよ」となって、アナグラム完成である。
パターン2 「捕まる」を採用する場合
「しめきり」「つかまる」が消えるので、残りは「ぶやってよ」。ここまで来れば「破ってよ」くらいしか導き出せそうにない。「しめきり」「つかまる」「やぶってよ」を組み合わせれば「〆切破ってよ捕まる」となるが、「よ」は終助詞なのでどこにだって付けることが可能だ。「〆切破って捕まるよ」とすれば、アナグラム完成である。
それでは、どちらが日本語として洗練されていてきれいだろうか。私は「〆切破って捕まるよ」の方が好きである。七五調なのでリズムが良くて妙な勢いがあって印象深くなる。
なお「桐島、部活やめるってよ」のアナグラムは、これだけには終わらない。「つまりメッカ渋谷来てるよ」とか、「しっかりつぶやき丸めてよ」とか、「ぶつかって決めるよりマシや」とか、色々考えられる。思いつく限り、「桐島、部活やめるってよ」の可能アナグラムは10種類を下らない。(以下次号)
★次回は村上春樹さんの「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」、与謝野晶子の名歌「柔肌の熱き血潮に触れもみで寂しからずや道を説く君」などが、驚きのアナグラムに変化する!