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やや調子に乗りだしていたことは否めない

 警戒しているつもりで、気が抜けていたのだろう。学校に通い始めて2週目のことだった。初週は1人でピリピリしていたが、親切に声をかけてくれる人がそれなりにいて、何度か学校の人たちとごはんを食べに行った。その他、現地の人が主催するオフ会を調べて英語をしゃべりに行ったり、日本語を勉強している人を探してお互いの言葉を教え合うランゲージ・エクスチェンジをしたりして、「自分……結構ロンドンになじんでいるのでは?(ドヤ)」とやや調子に乗りだしていたことは否めない。

 その日は女子3人で、すでに何度か利用済の、学校に一番近いパブを訪れていた。

このパブの店内でリュックがこつ然と消えた ©ひらりさ

 もともと放課後は1人で美術館を訪れようと思っていた私は「1杯だけなら」と言って、座席でも通路側に座っていたのだが……私を誘ってくれたタイ人の女の子がK-POPアイドルグループ「SEVENTEEN」を推していると聞いて、『浪費図鑑』編著者としての血が騒いでしまった。タイ人の浪費事情を根掘り葉掘り聞くうちにいつのまにか時間が経っており……、グラスが乾いてしばらくたったころに「あ、そろそろ行くね」と立ち上がって、椅子の下に置いていたリュックがないことに気づいたのだった。ポケットから財布をとられたとか、ハンドバッグが消えていたとかではなく、背中にがっつり背負うタイプのやつがこつ然と消えたのである。

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致命的な油断 トイレに行った瞬間に……

 最初、「トイレに持っていって置き忘れたんだっけ?」と店内をウロウロと探したが、完全にない。角テーブルの向かい側に座っていた子、私と同じサイドのすぐ隣に座っていた子に聞いても「全然わからない」と言う。そんなことあるの!? おそらく私がトイレに行った瞬間にやられたのだと思う。友だちが座席にいるから大丈夫だろう、というのが致命的な油断だった。

©iStock.com

 財布の中の100ポンドと、リュックの背に「財布をすられたときのために……」と入れていた2万円が、すぐに頭に浮かんだ。財布だけとられる事態を想定してリュックの方にもお金を入れて分散していたつもりで、リュックごとまるまるとられてしまったのが、落語みたいで面白いと言えば面白かった(いや面白くないですが)。もちろん、クレジットカードとか、Kindle Paperwhiteとか、その他電子機器とか、当然勉強道具も入っていたし、何より財布やリュックにも思い入れがある……。

 呆然として、店員に声をかけ、状況を一生懸命英語で説明すると、彼はすぐに理解してくれたが、警察への緊急通報ナンバー・999と、店の名前・電話番号・住所を書いたメモをよこしたのみ。自分で解決しろということらしい。まあ、これは日本でもそうだけど。