振り込め詐欺グループの忘年会に「闇営業」で出演している模様が「フライデー」に掲載された宮迫博之と田村亮。ふたりが開いた記者会見は、謝罪の場であるとともに、所属事務所の吉本興業社長・岡本昭彦氏が「俺にはお前ら全員クビにする力がある」と恫喝したことなどの告発の場となって話題を呼んだ。

緊急会見を開いた宮迫博之(左)、田村亮 ©文藝春秋

 その夜、ビートたけしはテレビ番組のなかでこんなことを言っている。

「芸人がこういう姿を見せるのはリスクがあって、涙を流して記者会見したやつの芸を誰が見て笑うんだってなるから、これはやってくれるなと思うわけ。それをやってしまわなきゃいけないようにした事務所、おかしいって」。

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ビートたけし ©文藝春秋

 くだんの記者会見では、宮迫がまず振り込め詐欺の被害者やその家族に謝罪し、続いて「世間の皆様」や「不快な気持ちにさせてしまっているすべての皆様」に「申し訳ございませんでした」と頭を下げた。その後に涙ながらの会見が続くことになる。それに対して、たけしは上述のようなことを言うのであった。

「フライデー事件」で「世間」に対して謝らなかった

 そのたけしも、かつて事件をおこして記者会見をおこなっている。愛人を取材した写真週刊誌の編集部を「たけし軍団」とともに襲撃する、いわゆる「フライデー事件」(1986年)のおりのこと。その際、近年の会見でよくみられるような、報道陣を前に謝罪するようなことはしなかった。そこでのたけしは、女性を守るためにしたことだが暴力はよくなかったと言い、そのいっぽうでフライデーの取材のありようを批判するのであった。

 また記者から「今回の暴力事件を世のお母さん方は子供にどう説明していいかわからずに困っている」と社会問題に広げた質問をされると、たけしは「親と子の対話のなかで、たけしも男として守ろうとしたけれども守り方を失敗したんだなと言ってくれれば。子供がそれでわからないガキだったら、バカなんだからしょうがない」と切り捨てた。

フライデー事件以来初めて記者会見するビートたけし(中央)と会見に詰め掛けた大勢の報道陣 ©共同通信社

 そうした丁々発止の姿勢は懲役6ヶ月・執行猶予2年の判決がくだった直後の記者会見でも変わらない。「判決に関しては重いと思っています」「ただもう6か月もたったことなので自分のなかではすでに解決したこと。くだらないことをやってしまったなと思っただけ」と述べる。

 たけしは事件と法の裁きに向き合うにとどめ、当事者性のない「世間の皆様」に対して詫びたりはしなかった。それに対して宮迫・田村の場合、「暴排条例」とそれを背景にした反社排除が今日の社会正義になっているとはいえ、詐欺被害者のみならず、世間の「不快な気持ち」を抱いた「皆様」にまで詫びた。現代日本が「不寛容社会」であることの現れである。