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特集2019年 忘れられない「名言・迷言・珍言」

「事務所、おかしいって」ビートたけしの一言が言い当てた、“裏方のほうが偉くなる時代”への違和感

「事務所、おかしいって」ビートたけしの一言が言い当てた、“裏方のほうが偉くなる時代”への違和感

2019年 忘れられない「名言・迷言・珍言」

2019/12/29
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いざとなれば演者を切り捨てる……事務所の実態が露呈した

 芸人を守ることなく、見せるべきでない姿を露出させた吉本興業に対して、たけしが腹をたてたのは、芸人がバカにされていると思ったからだ。人の褌で相撲を取っていながら、いざとなれば組織防衛のために演者を切り捨てる、そうした所業は芸能事務所にかぎらない。

吉本興業・岡本昭彦社長 ©吉田暁史

 映画「アナと雪の女王2」の宣伝で、SNS漫画家がプロモーション漫画を投稿する。その際、「PR」といれていなかったために炎上する騒ぎがあった。結果、漫画家がSNSアカウント上で謝罪。広告主と漫画家のあいだに入り、施策を仕切る代理店は謝ることはなかった。漫画家にとって、名前やアカウントは大事な看板だろうがそれに傷がついてもお構いなしだ。

裏方のほうが偉くなるのは、当世の風潮か

 雲隠れする裏方がいるいっぽうで、「プロデュースしました」「仕掛けました」とすすんで表に出る者もいる。いまどきはそうすることで「セルフ・プロデュース」し、自分を世に売り出しさえする。「菊作り 菊見るときは 陰の人」とはいかないようだ。

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 そういえば、たけしがバイク事故(1994年)で入院したおり、記者会見などすることでオフィス北野の社長で映画プロデューサーでもある森昌行に注目が集まった。世間は森をたけしの盟友とみなし、森の著書は『天才をプロデュース?』と題されもした。しかし、たけしは事務所を離脱する際、森と「二人三脚で映画を作った意識はない」(注4)と述べている。たけしにすれば、映画は監督のものであり、事務所は芸人のためのものであって、プロデューサーや事務所の者は自分らに仕える立場であったろう。

フライデー事件以来初めて記者会見するビートたけし ©時事通信社

 吉本の騒動では、松本人志が「いつからそんなに会社は偉くなったのか」と事務所を批判した。元マネージャーで現在の事務所社長の岡本氏の言動に対しての言葉だが、裏方のほうが偉くなるのは、当世の風潮なのかもしれない。もっとも、それ以上にすっかり偉くなってしまったのは「世間の皆様」なのだろうが。 

 

(注1) 小林信彦『日本の喜劇人』新潮文庫・1982年
(注2) 村松友視『トニー谷、ざんす』毎日新聞社・1997年
(注3) ビートたけし『芸人と影』小学館新書・2019年
(注4)  FRIDAY DIGITAL 元たけし軍団Aが明かした まるで『アウトレイジ』だった分裂抗争(2018年3月30日)

「事務所、おかしいって」ビートたけしの一言が言い当てた、“裏方のほうが偉くなる時代”への違和感

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