橋本 相当、研磨されてるよな。あのネタなら、誰がやってもそこそこウケるでしょうけど、あそこまでにはならないですよ。
鰻 職人が突き詰めた、究極の間。
橋本 あと、内海の言い方って、歌舞伎とか能のセリフを彷彿とさせるんですよね。「何々の何々で、何々になってるから、こうで、こうで、こうなるからねぇ」って、切るところといい、字数といい、むちゃくちゃ耳心地がいい。内海も朗々と読み上げてて、気持ちよさそうじゃないですか。五七五にはなってませんけど、短歌を気持ちよく詠んでるような感じなんですよね。
「何でベルマークやねん」とツッコまない“やさしさ”
――最初のツカミも笑えます。登場するなり、お客さんから何かプレゼントをもらうという小ネタを必ずやるんですよね。
橋本 あそこ、ツッコんでないんですよね。『今、ベルマークいただきましたけどもね』と言った後に、『何でベルマークやねん』とは言わない。『こんなん、なんぼあってもええですからね』って言うてる。それでウケる。こんなん、普通ないですよ。冷静に考えたら、漫才の本筋も、突っ込んでるようで突っ込んでないんですよね。『コーンフレークちゃうやないか!』とは言うてるけど、いちばん言いたいのは『コーンフレークとは、こういうもんやからね』というところ。なんか、おかんの好きな朝食を、ただ、一緒に考えてあげてるやさしい友だちみたいな感じ。それでいて、コーンフレークは煩悩の塊とか、プチブラックを入れてくる。でも、あくまで一緒に考えてあげてるという体やから毒っぽく響かない。もし、本筋がばんばん突っ込むようなネタだったら、あのツカミは成立しないと思う。というより、本人たちも、あのツカミはしてないでしょう。じつはあのツカミに、これから始まる漫才における2人の関係性が象徴されてたんやな。
鰻 ようできてんなー。あのネタ、先輩の結婚式でもやっとったもんな。余興として。
――どんな感じになるんですか?
橋本 新郎が鰻やったとしたら、「酔っぱらって、路上で寝とったらしい」「鰻やないか」「めっちゃお洒落な服を着とったって」「ほな、鰻ちゃうな。あいつはダサい服しか着いひんから」みたいなね。
鰻 番宣とかでもできるしな。仕事の依頼、めっちゃ増えるんやないか。最強ネタやな。
橋本 あと、最後の表彰式がきれかったですね。トロフィーをもらったあとに、あのツカミのネタをやるから何を言うのかと思ったら、お客さんからトロフィーをいただきました、と。それで拍手をもらうという。最後の最後まで完璧でしたね。
(【続き】“王道漫才”銀シャリが見たM-1敗れざる者「ぺこぱ、かまいたち、和牛」へ)
写真=深野未季/文藝春秋