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自分がどんな作家かは読者が決めること何を書いても受け止めてもらえる信頼感――辻村深月(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/07/12

genre : エンタメ, 読書

note

読者からの質問「物語を書き続ける原動力は?」

――では、読者からの質問をまとめて伺います。

●感情を文章にする時、何を意識されていますか。(20代男性)

 

辻村 誰もまだ書いていない、名付けていない感情や事象を、物語の形で届けるのが作家の仕事なのかなと思います。

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 私の書く主人公が持つ疎外感って、単に「友達がいないのか」とか「いじめに遭っている」というのとは違う。友達もいるし、いじめに遭っているわけではない子にも、そうした感情はあるんです。容易に名付けるのではなくて、どういうことか、物語の中で説明していく。だから、誰も書かない感情といっても、特別な感情ではないですね。私は特別じゃない感情を再発見していきちあのかな、とも思います。そうした、まだ書かれていない感情についてはこれからも探していきたいです。

●登場人物で誰が自分にいちばん近いと思いますか?(20代男性)

辻村 それぞれにちょっとずつ自分が溶けていると思うんですが、近い人はあまりいないんです。でもクリエイターとして『スロウハイツの神様』の赤羽環のあり方と、『ハケンアニメ!』に出てくる斎藤瞳監督のような貫き方ができたら素敵だなあと憧れています。

●いちばん思い入れのある登場人物は誰ですか?(20代女性)

辻村 やっぱり『スロウハイツの神様』のチヨダ・コーキでしょうか。コーちゃんが書きたくて書いたような話なので。

●辻村さんにとっての理想の家族像を教えてください。(10代女性)

辻村 言葉にしなくても大丈夫、というところもある反面、それでも「ありがとう」といった言葉を大事にきちんと言いあえる家族がいいなと思います。

●お子さんの名前をつける時に、大事にしたところはどこですか?(30代女性)

辻村 ……えーっと、誰にでも読んでもらえること(笑)。

●物語を書き続ける原動力を教えてください。(20代女性)

辻村 登場人物それぞれに対して、きちんと落とし前というか、結論をつけてあげたいなという気持ちがあります。それぞれの結論が見える岸があるとしたら、物語の川をきちんと渡って岸にまで送り届けたい、という気持ちが原動力です。

●編集者や書店員やコピーライターではなく、小説家でなければ駄目だと思った理由はありますか。(20代女性)

辻村 物語を作りたいという気持ちが強かったんです。何か事象に対して言葉を与えるともうそこで安心してしまうことはたくさんあると思うんですが、そうではなくて、一言では言えないことについて書いていきたいんです。たとえば、説明しづらいことでも「『朝が来る』に書いてあったあの彼女みたいなことです」と言うと伝わる、となるのが物語の強さだと思うし、そういうことを大事に書きたいです。

●登場人物の名前はどうやって決めていますか。友達と話す時も「狩野と正義が話すシーンが」「恭司がさ」とすんなり出てきます。「浅葱」や「いつか」など印象的な名前をどうひっぱってくるのかも気になります。(20代女性)

辻村 フィーリングで決めることがほとんどなんですけれど、そうすると好きな名前ばかりになって似通ってしまうんですね。それで、『島はぼくらと』以降、編集者に「好きな名前を男女別に10個出してください」と頼む時があります。そうすると自分の中にはない名前辞書みたいなものを開いている気分になります。

●子育てと読書を両立させるコツがありましたら教えてほしいです。(20代女性)

辻村 私は車酔いしない体質なので移動時間にものすごく読むんですけれど、もしも車酔いされる方だったらお勧めできないですよね。子どもの寝る時間に合わせて起きて読もうとして寝落ちしちゃう人の話も結構聞きますが、そういう時は子どもと一緒に寝ちゃって、朝子どもよりはやく起きて読むほうがお勧めです。

●私は一度も異性を好きになったことがありません。このまま一生誰も好きになれず、誰にも好かれなかったらと不安になります。人は誰しも人を好きになるという感情を持っていると思いますか。(20代女性)

辻村 持っていると思いますよ。まずはアイドルや芸能人、アニメや本の登場人物でもいいから、好きになれる人を見つけることをお勧めします。まずはときめきましょう!

読者からの質問「いちばん好きな作品は?」

●『凍りのくじら』の松永郁也がお気に入りです。彼のピアノの音がきれいです。何か音を描写する時の心がけていることはありますか。(20代女性)

辻村 やっぱり音楽を聴くことです。頭だけで描写しようとすると音楽は限界があります。他には実際にピアノの音を聴くとか。鍵盤を押すだけでも、ああこんなにインパクトがあるんだと思ったりする瞬間があるんです。

●ぼくは昔、本などまったく読んでいませんでした。しかし、『冷たい校舎の時は止まる』を読んで本にハマり、今の夢は本を書き、出版することです。どうしたら辻村先生のように人の強さや醜さ、愛を細かく表すことができるようになれますか?(10代男性)

辻村 必ずしも現実に体験したことを書かなくてはいけないと思わなくていいと思います。ただ、自分が読んだ小説や観た映画のなかで、激しく恋をしている人や狂おしく嫉妬している人がいると、自分は同じ経験をしていなくても、その人の気持ちが分かるということがあると思うんですよね。その時の描写をインプットしていくといいかもしれません。

●辻村さん自身は、登場人物の誰に近い考え方を持ちながら学生生活を送っていましたか?(10代女性)

辻村 『凍りのくじら』の理帆子みたいな「少し・不在」な感覚はありました。それはみんな持っている感覚だと思うんですけど。理帆子の考え方は当時の私よりもだいぶ大人ですけれど、共感できるところがたくさんあります。

●辻村さんの作品に実体験はありますか。(10代女性)

辻村 実体験そのものはないですね。ただ、その時見ていた教室の風景が小説に落とし込まれていることはあります。

●自分の作品を改めて読んだ時、どんな気持ちになりますか。読者でいう読後感のような作家の“書き後感”のようなものはありますか。(30代女性)

辻村 昔書いたものについては、やはり懐かしいです。それと、私の小説を高校生の時の私が読んだら、どんな気持ちになるだろう、と常に考えています。中学・高校くらいの時の自分ほど傲慢な読み手を知らないので(笑)。彼女に「見どころあるじゃん」って言われたら嬉しいけれど、「大人になって、こんなの書いちゃっているんだ」って彼女に軽蔑されたら嫌だなあって(笑)。

 中高生の頃の自分に読ませることは叶わないので、あの頃の私と同年代の人たちが読んでくれて、この作家は見どころがあるから他の作品も読もうという気持ちになってくれているとしたら、すごく嬉しいです。

 書き後感……。やっぱり「書きたいことをすべて書き切った」という嬉しさと達成感は他では得られないものなので、その瞬間のために書いているような気がします。

●本を読む時に心がけていることはありますか。速読術ブームですが、速読についてはどう思いますか。(20代男性)

 

辻村 何も心がけていないです。ひたすら楽しみます。それに読書は速度の問題ではないとは思います。でも本当に読むのがはやい人たちを見ていると、あの力があればもっとたくさん本が読めるんだろうな、と羨ましくなります。

●辻村先生! ご自身のなかでいちばん好きな作品は何ですか。ドラちゃんを題材とした作品をまた書かれる予定はありますか。涙なくして読めない場面などは泣きながら書いてしまったりするのですか?(40代女性)

辻村 いちばん好きな作品は決められないです。ドラえもんに関しては、『凍りのくじら』は結構負の要素が強い道具が多かったので、今度はすごく明るい道具だけで構成する小説も書いてみたいです。涙なくして……に関しては、そうですね、泣きながら書くことはありますね。初期の頃は特にそうでした。『子どもたちは夜と遊ぶ』と『スロウハイツの神様』は、後半ものすごく泣きながら最後まで書きました。

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