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自分がどんな作家かは読者が決めること何を書いても受け止めてもらえる信頼感――辻村深月(2)

話題の作家に瀧井朝世さんが90分間みっちりインタビュー 「作家と90分」

2015/07/12

genre : エンタメ, 読書

note

第1期の総集編は『名前探しの放課後』

――ああ、だから『凍りのくじら』に『ぼくのメジャースプーン』の登場人物であるふみちゃんがちょっと顔を出しているんですね。『ぼくの~』に出てくる秋先生は『子どもたちは夜と遊ぶ』の登場人物です。辻村作品は作品同士でリンクすることが多いですね。もちろんそれに気づかなくても楽しく読めますが。

辻村 『ぼくのメジャースプーン』では、秋先生を主人公格くらいにしようというのがありました。自分がいろんな作品を読んできて、ある作品で出てきた人が別の作品に出てきて「あ、あの人だ」と分かるとものすごくテンションが上がって楽しかった。それをやろうと思いました。誰よりも楽しんでいるのは自分だろうという自覚を持ちつつ。

――『ぼくのメジャースプーン』は小学校でみんなが育てていたうさぎが何者かに殺され、ショックを受けて学校にこなくなった幼馴染みのふみちゃんのために、主人公が何ができるか必死で考える。そこで相談に行くのが、秋先生なんですよね。テーマとしてはどのようなことを考えていましたか。

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辻村 秋先生が持つある能力を使って何かやってみたいと思ったんですよね。その頃「心の闇」という言葉をよく耳にするようになって、その罪と罰みたいなところで何か小説が書けないかなと思い、動物殺しについて考え始めたら日によって違うことを感じて、これは長篇になるなと思いました。他のミステリーの作家さんたちが短篇でやるかもしれないことを、私くらいは長篇でやってもいいんじゃないかと思いました。

 それで『ぼくのメジャースプーン』を書いたら、思いがけず、みなさんにミステリーだと言っていただいたんです。SFが好きな方が読んでくれたりもしたので、ジャンルは自分が決めることではなくて読者が決めることなんだなと、はじめて分かった気がしました。そのあたりから本当に自由になりました。

――その次が『スロウハイツの神様』(2007年刊/のち講談社文庫)。私が後半、ボロボロ泣きながら読んだ長篇です。若きクリエイターやその卵たちが暮らすシェアハウスを舞台にした青春群像劇です。

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2010年1月15日 発売

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スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2010年1月15日 発売

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辻村 私がドラえもん好きということで「トキワ荘みたいな話を書いたらどうですか」という話になりました。それで構成を考えていったら、自分がどれだけいろんなアニメや漫画や小説や映画といった、フィクションが好きだったのかということに結びついた話になりました。

――そして『名前探しの放課後』(2007年刊/のち講談社文庫)。これも不思議な要素のある話で、自殺者捜しをするミステリーになっています。

名前探しの放課後(上) (講談社文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2010年9月15日 発売

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名前探しの放課後(下) (講談社文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2010年9月15日 発売

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辻村 私に第1期みたいなものがあるとしたら、『名前探しの放課後』がその総集編だったのかなという気がします。『冷たい校舎の時は止まる』をやる時に2パターンで迷ったんですよね。時を止めて校舎の中に閉じ込めるパターンと、閉じ込めないで、普通に日常を送っているパターンと。閉じ込めるパターンを選んで書いたのが『冷たい校舎の時は止まる』でしたが、もうひとつの案もいつか書いてみたくて、それで『名前探しの放課後』を書きました。世界観のリンクについても、いちばんやりたいことをやったのが『名前探しの放課後』です。それができてすごく満足できました。

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2007年8月11日 発売

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冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

辻村 深月(著)

講談社
2007年8月11日 発売

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――そして、ここまでが全部、最初は講談社から刊行されたものなんですよね。その間に他の版元からも依頼はあったと思いますが、断っていたのですか。

辻村 やはり兼業だったので書く時間も限られていたし、最初にいろいろ引き受けると人づきあいだけで時間が潰れちゃうと聞いて、それはよくないと思って。ひとつの出版社と関係を密に築いたうえで最初の6冊をまとめて書けたのはすごくよかったです。それに同じレーベルから本が出るから、ノベルスでも文庫でも、書店で自分の棚ができるのも嬉しかった。でも次第に講談社の方に「他の出版社の人にも会ってみたら?」と勧められるようになりました(笑)。「絶対に勉強になるよ」って、送り出してくれた感じがあります。それで、文藝春秋の『別冊文藝春秋』での長篇『太陽の坐る場所』(2008年刊/のち文春文庫)の連載と、角川書店の『野性時代』で『ふちなしのかがみ』にまとめることとなる短篇の掲載を並行して始めました。兼業なのでそれまでは連載の締切を守れるか不安だったんですが、『別冊文藝春秋』が隔月刊だったことと、『太陽の坐る場所』が多視点の話で、視点が替わるところで区切れるので原稿を渡しやすいかなと思って引き受けました。

太陽の坐る場所 (文春文庫)

辻村 深月(著)

文藝春秋
2011年6月10日 発売

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ふちなしのかがみ (角川文庫)

辻村 深月(著)

角川書店
2012年6月22日 発売

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