読者からの質問
●小説を書くときのテーマはどのように決めているのでしょうか?(20代女性)
羽田 普通に生活していて気になったことやモチーフをメモしています。今だったら携帯電話にメモして、それをまとめて一太郎のファイルなどに貼り付けてプリントアウトして、それを眺めながら次のテーマはこれを書こうかな…と考えています。ストックはいっぱいあるけれど、そのなかで「次はこれにしよう」と熱意を感じられるのは1、2個しかないです。そこから登場人物や舞台の設定を考えて、いけそうだと思ったら形にしていきます。
●どのような基準で読む作品を決めていらっしゃいますか。また、好きな作家や好きな作品があれば教えていただけると幸いです。(20代男性)
羽田 直感で決めているとしかいいようがないですね。本から漂う気配を感じ取ります。国内の作品を読む時期が続いたら、一定の割合で海外の小説を読んだりしますね。単純に飽きるというか、ローテーションみたいなものです。
好きな作家や好きな作品については、国内で指名買いするのは藤沢周さん、吉村萬壱さん、中原昌也さん、最近は辻原登さん。海外小説は作品単位で選んでいるので、作家名で買うことはないです。
●羽田さんは、渋谷という街をどう見ていますか。ハロウィンにゾンビの格好した若者が溢れるお祭りの街。2020年に向けて再開発の中心になっている街。なんだかんだでいつも話題があり、人が溢れている街ですが。渋谷には行かれますか。羽田さんにとって好きな街ですか。(30代女性)
羽田 阿部和重さんがどこかで書かれていた「渋谷は人が行き交うのみで、街という感じすらしない」というような言葉をずっと憶えていて、確かにその通りだなと思います。坂があってそんなに俯瞰できなくて、どこに何があるのか分からないけれど、いろんな路線が通っていて、絶えず人が移動している。行き交う場所、通過点という印象です。
『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』の冒頭の場所を渋谷にしたのも、それぞれ自分が属しているコミュニティーの属性を洗練させようとする人たちがたくさん集まっている場所として、でした。外国人から見たアイコンとしてもいいかなと考えました。
●羽田先生の作品はリアルな描写が印象的ですが、ご自身の経験をもとに描かれているのでしょうか? また、登場人物は家族や友人、恋人など近しい人をモデルにされたりしますか?(30代女性)
羽田 もちろん経験というのは反映されますけれど。最近ヴェンダース監督の『誰のせいでもない』という映画を観たんですが、主人公が小説家なんです。ある交通事故の経験をきっかけに作家として大成するんですけれど、小説家の中で、経験したことと想像したことがごっちゃになって、境目がなくなっていくと指摘されたり主人公が自覚するのがリアルでした。何が経験で何が想像かは分からないものだし、そういうことを考えることにあまり意味がないのかなと思います。人は誰しも、自分についての物語を無意識のうちに書き換えますから。
●『ミート・ザ・ビート』でカーステレオから山下達郎さんの「SPARKLE」や「FUTARI」が流れるシーンがありますが、羽田さんは山下達郎さんのどの曲が一番好きですか?(30代女性)
羽田 「FUTARI」です。CHEMISTRYの堂珍さんがカバーしているのを聴いて感動しました。
●芥川賞を受賞されてから、地方での講演やローカル番組への出演が増えている羽田さんですが、移動中の新幹線や飛行機の中でどのように過ごされているか教えてください。(30代女性)
羽田 前はスケジュール帳をチェックしたり読書したりしていたんですが、意外と揺れるので活字を読むのは向いていない。なんとなく眠ったりしていた時もありましたが、最近はiPadを買ったので映画を観ています。煮干し食べながら。新幹線に乗る時は自分でポットにいれたコーヒーと煮干しを持っていっているので。煮干しはアミノ酸のバランスもいいし、意外とコーヒーと合います。
●今まで読んだ本の中で羽田先生に一番影響を与えたものは何ですか?(20代男性)
羽田 なんでしょうかね。一番と言われると分からなくなりますね。阿部和重さんの『シンセミア』でしょうか。阿部さんの作品も視野が狭くて何かしら歪んだ考えの奴が暴走する話が多いので、自分に近い感じがします。
●今まで一番影響を受けたドラマや映画、ゲームなどを教えてください。(20代男性)
羽田 家にテレビがないのでドラマは…ゲームもやらないですね。映画はなんですかね、最近だとミヒャエル・ハネケ作品全般でしょうか。
●羽田さんの女性を主人公にした作品も読んでみたいと思うのですが、もし書かれるとしたらどの年代の女性を書いてみたいと思いますか?(30代女性)
羽田 本にはしていないけれど、200枚くらいの中篇で女性主人公を書いたことがあります。20歳くらいの、自動車整備のスペシャリストみたいな子でした。でも結局男性主人公が多いのは、作者の芸の達者さを見せつけている余裕なんてないからです。自分が得意だと思えるものを書いていないと次はないという時に、自分はこんなものも書けますよと言って見せびらかしてもしょうがない。それで、自分にとってベストな設定は何かと考えると、男性になるんですよね。女性である必要性がない限りは。
●昔の文豪はよく逗留をして作品を書き上げていましたが、出版社から「滞在費を全額出すので缶詰めで作品を作って欲しい」と言われたら、羽田さんはどこの場所(温泉宿やホテル)に行きたいですか?(30代女性)
羽田 そういえば『ミート・ザ・ビート』の時に文藝春秋の缶詰部屋で原稿の直しをしたことがありましたね。『盗まれた顔』の時は熱海あたりのホテルに泊めさせてもらったんですけれど、夜に鮨なんか食べたりしてろくに仕事が進まなくって。椅子と机が必要なので、和室の旅館よりビジネスホテルのほうがいいですね。でも、僕は原稿を直す時、印刷したものに赤ペンを入れていくので、プリンターが必要なんですよ。プリンターを持ち歩くのも無理なので、結局は自宅でやりたいです。
●家族や友人に言われた言葉で印象に残っているものはありますか。(30代女性)
羽田 言語化されたことそれ単品で影響を受けるということはあまりないです。言葉というのは流れの中で発せられるものなので、流れ全体が重要ですから。それと、小説家だからこそ、非言語的なものの重要性を認識しています。
●筋トレは毎日してますか? どんな内容をどのくらいの時間していますか?(30代女性)
羽田 今は3日に1回スクワットと懸垂と腕立てしかやっていないです。そんなこと訊いてどうすんですかね。講演会の質疑応答なんかでも毎回訊かれ、疑問に思います。
●本のネタにするために、心がけてることはありますか? 小説を書くときに、パソコンで打つのと原稿用紙に手書きするのとでは、どちらの方がいいと思いますか?(10代女性)
羽田 気が進まないことでもやってみるってことですかね。今いろんな仕事をやっているのはそのためです。ちょっとストレスがあるから辞めようというのではなく、ストレスがあったとしても、新しい経験ができるんだったらやってみようと思います。プラスとマイナスを考えて、プラスが多そうだったらやる。
パソコンと手書きについては、デビューしていないのだったら、原稿用紙に手書きがいいと思います。僕もやっぱり3作目の『走ル』までは手書きでした。原稿用紙に書いた感覚を今でも憶えつつ、パソコンでやっているので、最初からパソコンというとまた違うんじゃないでしょうか。なんかつまらないものを書いても、パソコンで書いて整った字になっているのを見ると、つまらないって分からなくなると思うんですよね。手書きだと自分で駄目だって直感的に分かるというか。だから客観的に見てくれる編集者も読者もいない状態で書くんだったら、手書きのほうがいいです。
●新人賞応募用の小説を最近書き上げたのですが、読み直してみても、つまらなすぎて心が挫けそうになります。羽田さんは、自作の小説を読み直し、推敲する際のスタンスはどういった感じが好ましいと思いますか?(20代男性)
羽田 つまらないって思えるだけかなりセンスありますよ。プロの歌手も、ベテランほど、自身の些細な音程の甘さを自覚し厳しかったりする。それだけ冷静だということ。僕だってデビュー前の最初の2作は途中で自分でボツにしましたからね。僕はケチくさく直すのではなく、大枠として駄目なものはもう全部ボツにしたらいいという考えです。何度も直しをいれてなんとかいい本にしようとする人もいますが、僕は違うんです。直す手間よりも、まったく新しい小説を書いたほうがいいだろうなと思っちゃうんです。
●これからの夢、野望があれば教えてください!(20代男性)
羽田 たとえば空港の書店のように売れてる本しか置かれない店に自分の本が置かれて、その状態が60歳くらいまで続くということですかね。結構難しいと思います。