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「小説の世界って残酷で、本当に才能のある数人でまわしていけばいい世界」。その通りだと思う。そこを目指したい。

――今後も読者に語られやすい長篇を書きますか。

羽田 今書いているのは400字詰め原稿用紙500枚くらいなんですよ。デビュー作も400枚だったし、わりと長いものを書くのは平気なんです。200枚とか数十枚のほうが難しいですね。これまで、僕自身はあまり芥川賞を狙うという感じでもなかったんですけれど、編集者がなんとなく候補になりやすい枚数を書かせようとしてくるので、それくらいの枚数のものを書いているうちに身体感覚が慣れていったんです。賞を狙うという足枷がなくなると長いものを書く傾向にある気がしますね。

――足枷がなくなったという感覚がありますか。

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羽田 自由に書いていいんだなって気がしますね。自分では芥川賞を狙っていたわけでなくても、今となってはやっぱり何か足枷だった気がします。今はもう、本当に馬鹿みたいな小説を書いても平気なんだなって思っています。

――さきほど藤沢周さんのお名前が出ましたけれど、前に「藤沢周さんがデビューした年齢の時に、自分は藤沢さんみたいな作品が書けるだろうかと思う」とおっしゃっていましたよね。藤沢さんは34歳になる年にデビューされていて、羽田さんは今31歳ですね。って、まだ31歳なのか…(笑)。

羽田 そうなんです、藤沢周さんのデビュー作『死亡遊戯』みたいな作品が書けるかどうか。あと1、2年しか猶予がないですよね。ちょっとまずいなと思いますね。あの小説は、今藤沢さんがやっていることとは表面的には違ったりはしますけれど、でもやっぱり30歳ちょっとでよくあんなのが書けるなって思いますね。とあるご高名な作家さんが前にどこかで、小説の世界って残酷で、本当に才能のある人たち数人で回していけばいい世界だっていうふうなことをおっしゃっていて、僕も本当にその通りだと思うんですよね。でもやっぱり、そこを目指したいと思いますね。

――芥川賞受賞後、テレビなどメディアへの露出もかなり多いですよね。あれはやはり、本の宣伝のためですか? 出るもの出ないもの選んでいるのでしょうか。

羽田 前は選んでいましたけれど、今はそんなにめちゃくちゃ変な依頼は来ないのでそこまで選んでいないです。スケジュール等諸条件があえば出ます。まあ、たまに新刊を出した時だけテレビに出たいとか虫のいいことを言ってはいられないので、細く長く繋いでいかないと駄目かなって思っているので。あとは、宣伝ですらなくて、顰蹙を買うためにやっている感じです。経験として出ているというか。

――経験になってます?

羽田 小説家が小説を高みに持っていくには、まず読書すればいいと思うんです。でもそれとはまったく別の、質の違う経験をすることによって、また別の角度から成長できるなと思うんですね。どうしても自宅で本を読んでいるだけではない気づきというのがありますから。会う人会う人自分に肯定的な意見を言ってくれる同業者たちの世界ではなく、まったく見ず知らずの町で馬鹿にされたりしながらの経験って、絶対に小説にプラスになってくれると思うんです。結構、自分が今までどっぷり浸かってた業界を疑う目線も新たに確認できましたし。

――テレビの出演、講演会の仕事も、ぜんぶ一人でマネジメントされているそうですね。結構日本各地にも行かれているし、大変そうだなあ、と。

羽田 原稿を直すまとまった時間がなかなかとれなくて。時間がとれて直せたら、今書いている500枚の原稿を発表できる予定です。

――おお、お待ちしています。今後については、先々まで見通して考えていますか。

羽田 あまり先のことを予測してもしょうがないので、考えないようにしています。5年くらい先しか見ていないですね。5年10年を振り返ってみても、予想していなかったことがいっぱい起こっている。だからあまり先のことを考えてもしょうがないと思っています。