10月31日、月末の金曜日という瞬間を狙って、黒田日銀総裁は突然、追加金融緩和策を発表しました。マネタリーベースを年間80兆円まで増やし、更にETFは3兆円、リートも900億円買い増す、といういわば「直接介入」で、結果的に株式市場は6年ぶりの最高値を更新する急騰となりました。サプライズを狙ったとすればこれは成功だったと言えるでしょう。
しかし元来この追加緩和政策は、前回の金融緩和及び財政投入以降、景気が下降気味になってきた時に発動される、と市場は考えていて、12月の消費税10%への増税判断のタイミングに合わせて動き出すだろうと予測していただけに唐突感は否めません。それだけ市場は過激に反応した訳ですが、このタイミングで追加緩和するということは、政府自らが、アベノミクスの失敗を認めたからです。もし、彼らが言うように、アベノミクスが成功し、景気も心配なく更に消費税増税も可能、と言うのであれば追加緩和の必要は全くない訳で、直接介入を含む追加金融緩和をこの時点で発動すると言うことは増税後、景気の足取りがおかしいことを政府自らが認めたと言うしかありません。
更に今回の金融政策決定会合においては、追加緩和賛成5に対して反対4という異例の僅差で、審議委員の中でも反対意見が極めて強かったことがうかがえます。実際は総裁、副総裁で3票持っていますので、その他審議委員の票数は実際賛成2、反対4となる訳で、過半数の委員は追加緩和に反対を表明していた、という事実を考えると、これは黒田総裁自らが政府サイドの意向を受けて強行した、と考えざるを得ないでしょう。
株価と実体経済の回復とは別物
安倍政権誕生後、約20%の円安になったため、一部大手輸出企業は当然、バランスシート上の売り上げがかさ上げされますので、非常に良い決算の数字が出てきます。しかし、日本という国は大手企業、つまり上場企業約3800社に限ってみても、海外売上高比率が50%を超えている企業はわずか286社(およそ7%)しかありません。仮に30%までハードルを下げても605社です。多くの方は日本は貿易立国だと疑いもなく信じておられますが、実際の日本の輸出依存度はせいぜい15%程度にしか過ぎず、内需を含めた消費がGDPの60%を占めるのとは対照的なのです。つまり円安による恩恵を受ける企業は全産業ではごく一部であり、更に約20%の円安になっているにも拘わらず、輸出数量は一向に伸びず、原油などの輸入価格の上昇により貿易赤字が続いていることはみなさんご存じの通りです(当然円安により金額では輸出は上昇している)。
従って金融緩和により輸出主導で日本経済が成長し、所得分配が起きて景気が回復するという「第一の矢」のシナリオは完全に崩壊しています。更に言えば、「第一の矢」どころかこれは「第一の石つぶて」となって原材料を輸入に頼っている中小企業の経営を直撃し、更に国民は輸入価格の高騰で日々のやりくりに大変な思いをしているのが現状です。
マクロ経済の統計を見ても、消費税増税以降経済が失速しているのは明らかです。4―6月期のGDPは年率マイナス6.8%と衝撃的な数字となったのですが、姑息にも更に下方修正し、実はマイナス7.1%と発表しました。震災後の数字を上回らないように最初数字を粉飾した匂いがぷんぷんします。