「悪いことをしていないのに、なぜ逮捕されないといけないのか」
Q「松永の様子は?」
A「ごくごく普通。新聞報道も読んでいるが、無表情だ」
Q「少女が自傷癖で作った傷の手当てをふたりはしたのか?」
A「してあげていたとは聞いている。それと、少女の足は水虫です。それで足爪が剥がれたのでは?」
Q「精神安定剤は病院処方か?」
A「漢方薬など、市販の薬。『飲まないと眠れない』と少女が言うので与えたようだ」
Q「少女が警察に駆け込んだことについて、なにか言っているか?」
A「緒方は『理由がわからない』と言っている。ふたりの話しぶりからは、少女に敵意を持たれ、手を焼いていたような感じ。ふたりとも『あの子はおかしい』と言っていた」
Q「法律書を差し入れたと聞いたが」
A「松永本人の希望で、刑事訴訟法の本を差し入れた」
Q「最初の接見で弁護士が聞いた彼らの本名は、警察発表と同じだったか?」
A「そうです」
Q「ふたりの様子は?」
A「悪いことをしていないのに、なぜ逮捕されないといけないのか。完全黙秘を続け、公判段階になれば自分から話すと言っている」
「監禁での立件は難しいのではないか」
このように、弁護士の会見からは松永と緒方が完全に犯行を否認している状況がうかがえる。実際、警察内部でも傷害はともかく、監禁での立件は難しいのではないかとの意見が出ていた。同日の夜、捜査幹部は取材した記者に対して次のように明かしている。
「(少女に)カネを渡していたし、バスカード、テレホンカードも渡していた。PTSDの影響で“監禁”になったという見立てだが、ちょっと厳しいのではないかという意見が出ている。検事がどういうふうに取るのか。もし起訴したとしても、微罪だけに執行猶予になる可能性が高いのではないか。ただ、爪を自分から剥ぐことは考えにくく、傷害だけで起訴になる可能性もある」
松永と緒方の逮捕から1週間を経ても、氷山のほんの一角しか姿は見えていなかったのである。
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この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。