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米中覇権争いは一旦休戦となる

 トランプは選挙と議会の弾劾審議に没頭している。加えて、中国とは1月15日に米中貿易協議「第一段階」の合意署名(一種の休戦協定)がなされており、今回の事態で米国が中国に新たな挑発を加える可能性は低い。米中貿易協議「第一段階」の合意で約束した「農産品を含む米国製品の追加購入分として今後2年で2000億ドル(約21兆6000億円)を上積みする」ことについても、早々に催促することはないだろう。

 従って、中国は対米貿易戦争(覇権争い)との二正面作戦は免れ、コロナウイルス肺炎感染事態の対処に注力できるだろう。

WHOを“恫喝”した中国

 中国の14億の人口は外交上の強みになる。1月28日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長と会談した際、新型のコロナウイルスによる肺炎について習近平は「WHOと国際社会の客観的で公正、冷静、理性的な評価を信じる」と、緊急事態宣言を出さないよう圧力をかけた。否、恫喝したというのが正しい。

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WHO事務局長と対談する習近平氏 ©AFLO

 WHOは、14億人を擁する中国の協力なしには、この問題に責任ある対応が取れない。14億人の中国が、残り56億人の世界の人々の生命を人質にすることができるのだ。中国はこのように新型肺炎という「弱み」を「強み」にすることができるわけだ。

 もとより、中国の国連分担金は3億3470万米ドル(分担率12.005%)で、米国の6億7420万(分担率22.000%)に次いでいることも、一定の圧力になっているはずだ(出典:外務省「2017年~2019年 国連通常予算分担率・分担金」(2019年))。なお、中国は、エチオピアに構築した情報組織により、テドロス事務局長の個人的な弱みや彼の利益となるものについては詳細に把握しているだろう。

 しかし、WHOは30日夜(日本時間31日未明)、ついに「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」と宣言した。その理由は、「中国以外にも感染が広がり始めた事態を重くみて、感染拡大防止には国際的な協力態勢が必要と判断した」とのこと。ただ、「現時点では中国への渡航や貿易の制限などは必要ない」など、山盛りの配慮の跡がうかがえ、中国の意向を最大限に忖度したことは明白だ。