WHOの緊急事態宣言は中国経済にとって一定の打撃にはなるが、各国政府や企業から資金や物資など支援が拡大する効果も期待できる。それでも中国が、WHOの緊急事態宣言を忌避した本当の理由は以下の通りだ。
緊急事態が宣言されると、WHO加盟国は感染者が出た場合に24時間以内の通告を義務付けられ、空港や港での検疫強化や渡航制限といった水際対策の徹底を求められる。それは中国が一定程度、国連(WHO)ひいては米国のコントロール下に置かれることを意味する。また、感染者発生の情報を24時間以内に通告する義務を負えば、「内外に対する情報コントロール」というツールが失われる。このことは、共産党独裁政権にとっては痛手となる。
「日本は中国に保険を賭けざるを得ない」
外交交渉において、中国の「弱み」を「強み」にする手法は、経済分野でも使える。世界のGDPに占める中国の割合は15.0%(米国は24.5%)であり、中国経済が破綻すれば「世界共倒れ」になることは誰もが承知だ。従って、経済交渉などの場で、「中国経済破綻」を脅しに使えば、米国でさえも譲歩・妥協しよう。
当面の案件は4月に予定される習近平の訪日である。「香港問題」、「邦人拘束問題」、「尖閣問題」、「日本食品の輸入規制問題」を挙げ、「国賓訪日」に反対する向きもある。しかし、「アメリカ・ファースト」を掲げ、日本に駐留費負担増を要求し、「日本のタンカーは自国で守れ」と言い放つトランプに不安を覚える安倍総理は、中国に「保険を賭けざるを得ない」立場にある、と習近平は見ているはずだ。
「善く戦う者は、人を致して人に致されず」(孫子の兵法)
この言葉は、「戦い上手な者は、自分が主導権を握り、敵を引き摺り回して、後手後手の戦を強要する」という意味である。中国は今ピンチに立たされているが、「弱み」を「強み」にするしたたかさをもって、国内・国際両面で主導権を握り、この難局を克服して、次なる対米覇権争いの勝利につなげようとするだろう。
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