「中国出身だからという理由で仕事を断られた」
ソウル市内の街行く人のほとんどはマスク姿で、もっとも安全だといわれる「N95」のマスク使用者も見受けられる。薬局などの店頭にはもちろんマスクの在庫はなし。マスクの買い占めや詐欺も登場し、韓国政府は取り締まりに乗り出した。人混みを避ける風潮のためか、大手スーパーマーケットや百貨店からは人が消えて閑散とした雰囲気が漂う一方、食料品などの日用品のネット注文が激増しているという。
中国出身者への偏見も露わになっている。韓国には、日本の植民地時代や朝鮮戦争後に中国に移住したとされる、中国籍だが朝鮮語も話す「朝鮮族」の人々が80万人ほど居住している。2000年代に入ってから、中国東北部の吉林省などから韓国に来て働く人が増え、介護や家政婦、食堂、建設現場などでは欠かせない存在になっているが、「中国出身」という理由で偏見の対象となるケースが報道されている。
ソウル市内のチャイナタウンとして知られる街「大林洞」からはすっかり人出は遠のいており、新聞記事は、「中国出身だからという理由で仕事を断られた」(韓国日報、1月30日)という話や、「マスク220枚を25万ウォン(約2万5000円)で買って武漢から(中国東北部の)コンシュン市まではかなり離れているけれど安心できない(だから、マスクを故郷に送った)」(韓国日報、1月30日)という話を拾っている。
知り合いの50代の主婦は、長く入院している義母の介護士が朝鮮族で、「朝鮮族どうしでお互いに融通しながら中国に頻繁に帰国する人が多いから、本人が大丈夫でも感染する確率が高いのではないかと思って気が気でない。でも、すぐに代わりはみつからないし、悩ましい」と話していた。
「あまりにも中国の顔色を窺いすぎた」韓国政府の対応
韓国政府の対応については、「あまりにも中国の顔色を窺いすぎた」(中道系紙記者)という声があがっている。
「“恐中症”がまたもや顔をのぞかせてしまった形です。春には6年ぶりとなる習近平国家主席の訪韓が予定されていて、『限韓令』(K-POPなどの韓流コンテンツの輸入制限など)も解かれるのではないかという期待感がありましたから、やむをえない部分もあったのかもしれません。しかし、湖北省滞在の外国人の入国拒否についての決断が遅く、中国への旅行についても『中国全域旅行警報』を一段階引上げ『撤収勧告』としながらすぐに撤回したりと右往左往が目立ちました」
韓国で「恐中症」という言葉が使われ始めたのは2000年初め。韓国が国産ニンニク保護のために中国産ニンニクの冷凍品などへ関税率を高める措置をとったことに対し、中国が韓国製携帯機器などの輸入を暫定的に禁止した“ニンニク紛争”がきっかけだ。