高校卒業後、将棋の棋士になるべく18歳で奨励会受験を決意した知花賢さん。師匠になってくれたのは、所司和晴七段だった。

 所司七段は、渡辺明三冠、近藤誠也六段といった若くしてプロになった棋士の師匠でもあるが、高校生以上での奨励会受験者も弟子にしてきた。自身も17歳での奨励会受験からプロになっていて「情熱があれば年齢のハンディははねのけることができる」と考えているからだ。知花さんとの出会いを「年齢的に大変なのは伝えましたが、とても将棋に情熱があり、自分が奨励会に入った時よりかなり強かったです」と振り返る。

将棋教室で指導する知花賢さん。現在33歳

 奨励会には入会試験にも年齢制限がある。大半が入会する6級の場合、15歳までしか受験できない。16歳は5級、17歳は4級、18歳は3級、19歳は1級での受験とハードルが上がっていく。1986年10月生まれの知花さんは、2005年8月の奨励会試験の時点では18歳10か月。2か月早く生まれていたら19歳で1級を受けなければならず、ギリギリのタイミングでの3級受験だった。

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 1次試験では受験者同士が対局を行い、当時は2日で6戦。4勝すれば通過。2次試験が現役奨励会員との対局で、1日3戦のうち1勝すれば合格だった。

(前後編の後編/前編を読む)

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18歳での奨励会受験「合格の自信はあった」

――奨励会受験は6級受験者が大半で、3級受験の知花さんが駒を落とす対局もあったと思います。対策など大変ではなかったですか?

知花 1次試験に角落ちはなかったと思います。香落ちはあったかな。対策は全然せず、強ければ受かると思っていました。自分は学校の勉強をしていなくて文章も苦手だから、プロになったときのスピーチができるか悩んでいたくらいで、合格の自信はありました。4連勝で1次通過が決まったあと2敗したと思います。

 2次試験は奨励会員との対局で、4級だった永瀬拓矢二冠(当時中1)と。3級受験だから、こちらが後手でした。朝からの1局目で、千日手指し直しになり昼休みが終わる時間になっても決着がつきませんでしたが、最後は勝って合格しました。

 

――18歳で入る人はめったにいません。奨励会にはなじめましたか?

知花 入ってすぐに他の奨励会員に「将棋を教えて下さい」と声をかけたことがありました。そしたら「2000円で教えてやるよ」とお金を要求されて、奨励会は怖いところだと思いました。野球をやってきたから、つい野球と将棋の世界を比べてしまう面もありました。野球では年齢の上下関係は厳しく、年上には常に敬語です。でも、奨励会ではずっと年下の子が「知花君」なんて呼んできて、びっくりしました。年下のプロもいて、「先生、先生」と呼んですごく気を使わなくてはいけないし。そういうところには、最後までなじめなかったかもしれません。