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講談師・神田松之丞はなぜ“売れた”のか――神田伯山になる直前に語った「本音」

六代目神田伯山、襲名記念インタビュー

2020/02/11

講談がきっかけで売れたというのが大事なポイント

――松之丞さんは今までの講談師が当たり前としてきたことをやらず、やってこなかったことをやって成功した。「逆目」でブレイクした感じです。これって、重要な気がするんです。

松之丞 僕は大学時代には弟子入りせず、歌舞伎、落語、浪曲など、様々な芸能を見ていた期間が長かったので、講談の常識だけではなく、一歩引いたところでの判断基準を持てたのが良かったかもしれませんね。

 

――業界関係者のなかには、松之丞さんはメディアでも、講談でも、より笑いに特化していれば、もっと爆発的に売れただろうという人もいます。

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松之丞 いや僕はTV向きじゃないですよ、あきらかに。TVはトークというか、MCとの会話を重視しているので。私は会話出来ないんですよ、友達いないから(笑)人より喋っていないのが裏目に出て。でも方向性としては、自分のキャラクターを中心に売れるというより、講談きっかけで売れたということが大事なポイントかなと。実際はラジオきっかけだったり、TVでの露出で状況は加速度的に変わっていったのですが。私はラジオやTVに出る前から、少しだけ注目して頂いていたんですね。

 

 なので最初メディアの力は使わずに、あの時に浮上したのは本職の部分だという自負はあります。もっとも、まだまだ未熟な講談ですが。それは一番自分がよく分かっているんですね。今年の正月も『畔倉重四郎』という人殺しばかりが続く十九席の連続物をA日程、B日程、名古屋のC日程と合計15日間読みましたが、これは相撲にたとえるなら四股を踏み続ける地道な作業です。これこそ、僕は講談の本丸だと思うんですけど、そのあたりをおさえていながら、エンターテインメントとして機能しているのは、師匠の台本は凄いなと思いますね。講談の中でも「連続物は流行らない」と思っていた人が大勢を占めていたところを、師匠の神田松鯉が大切にしていて、それを形にしているので。

メディアにも出る芸人は批判もされやすい

――中には、今までの常識を覆す松之丞さんに、苦言を言う人もいますよね。長く演芸界にいる人からすると、1000人規模のホールを講談で満員にしたり、メディアでの露出が多い松之丞さんのことが“異物”に見えるのでしょうか。

松之丞 どうなんだろう……。我々がやっているのは大衆芸ですから、多くの人にそのジャンルを知って頂くのは大事な作業なので。それに関しては極めて真っ当な露出の仕方だと思います。色々な役割がありますから。メディアにも出る芸人というのは、同時に批判もされやすいんですね。それは、役割として受け止めるしかないかなと。聞きこんでいくと分かる芸というものは確かにあります。業界はそれと両輪なんですよね。なので、どちらかしかないような講談界は非常に危機的だと思うのですが、両輪というのは理想的だなと思います。なので個人で見るより業界全体で見る視野が必要かなと思いますね。そういう意味では、非常に講談界は風通しもよく良好だと思います。