「売れる」ことは重要なのか
――同世代の「同志」がいない。
松之丞 成金メンバーは仲間ですよね。ジャンルが落語と講談で違うので、同志とは違うかもしれないですけど。そうなると、先輩方に目が向いちゃいますよね。メディアという枠で括ると、今度(2月19日)、新宿末廣亭での披露目に立川志らく師匠に出ていただけることになったのですが、改めて志らく師匠のバイタリティってすごいなと気づきました。朝、帯でテレビ番組に出て、夜は夜で落語会をやって、しかもクオリティは保っているという噂です。ご病気も経験されたし、体調だって常には万全じゃないはずなのに一生懸命。これだけの仕事をこなされているのは、とんでもないことですよ。ツイッターだけはどうかと思う時はありますが(笑)。
――「売れる」って、ものすごく重要なことだと改めて感じますか?
松之丞 僕は妄想するのが趣味なんですが(笑)、もう自分のテキストでは考えられないので、今後例えば弟子が出来たら、その売れるかどうかの基準で物事は考えないですよね。講談が好きで努力している人間であれば、売れていようがいまいが、両方良いなぁと思うんじゃないんですか。だって売れるなんて結果論ですから。プロは結果がすべてなのかもしれないですけど。ただ数は多いのに全員売れていない一門とかみると、寂しいなぁとは思いますよね(笑)。
飛びながら、「伯山」という飛行機を仕上げていく
――六代目神田伯山は、どんな色合いの講談師になりそうですか。
松之丞 五代目伯山は44年前に亡くなっているので、実際に聞いている人は少ないですし、伯山という名前にまつわるイメージはないですよね。だから、これまでの伯山が得意としてきた読物に敬意を持ちつつ、自分なりの伯山を歩んでいければと思います。ツイッターか何かでみたのですが、とある社長の話で、企業を経営していくというのは飛行機を飛ばしながら修理していくものだと。着陸すると止まってしまう。飛ばしながらちょっとずつ修理を重ねていくもんだと。なるほど、と思いました。自分も飛びながら、「伯山」という飛行機を仕上げていくんだと思います。
――伯山は一日にしてならず、という感じですね。でも、伯山に変わることで「あれっ?」と思う人はいますよね。
松之丞 ビジネス的には「松之丞」のままがいいし、真打昇進で一度花火を上げて、しばらく経ってから襲名でもう一度花火を上げるという戦略もあったんですが、伯山という名跡を継げるのは今のタイミングしかなかったんです。だから、知名度という点では松之丞より下降するとは思います。それでも下降するのはどうでもよくて、飛行しながらどこに照準を定めるのか、ということでしょうね。歌舞伎の松本幸四郎さんが襲名初日の舞台を終えて、「幸四郎になったからと言って、芸が上がるわけじゃないんだな」と思ったそうです。でも、時間が経つにつれて幸四郎という看板が馴染んでいく。そういうものなんだろうと思います。これ、生島さんに聞いた話ですね(笑)。
――ハイ(笑)。
松之丞 地道にネタを増やしながら、路線を定めていくしかないでしょうね。その積み重ねです。