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2020/02/12

 たいていの人は、祖国が「偉大」で「富強」(強くて豊か)だと嬉しい。これも当局への信頼度が向上する理由になった。ネット世論においても、投稿内容の厳しい検閲も理由とはいえ、一昔前とちがって体制擁護的な意見が多数派になった。現代の中国を、漢や唐の絶頂期とならぶ「盛世」だと呼ぶ声も少なからず聞かれた。

 習近平政権の発足以来のスローガンである「中国の夢」(中国夢 Zhōng guó mèng)は、中国人民が当局のコントロール下にある情報を素直に信じ、体制を疑わないことでハッピーな幻想に酔える状態を出現させた点において、ある意味で実現していたのである。

 ……だが、2020年の1月20日以降、こうした従来のムードは大きく崩れている。

メディアやSNSが異例の活発化

 これまで習近平体制下の中国では、重大ニュースは「新華社」などの中央メディアの報道を他のメディアが転載する形式が推奨され、またあらゆるニュース内容が体制にポジティヴなメッセージを含む内容(「正能量」)に変換されてきた。

 だが、いまや各メディアによる独自報道や、不都合な事実を指摘する内容の報道が少なからず見られはじめている。当局側の情報統制や摘発が間に合わないのか、これまでは鳴りを潜めていた、ネットを通じた問題告発や政治主張の発表も活発化している。

 特に武漢市内や湖北省内からは、病院内で錯乱する医師・看護師の姿や数多くの遺体を映したとみられる現地の動画や、体制批判の演説動画などをSNSに投稿する例がかなり多く見られるようになった。

 保護者が強引な隔離を受けたことで1人残された脳性まひの少年が死亡した例や、病院の手が回らず治療が受けられない老人が死亡した例など、社会的弱者が犠牲になったことへの怒りを、遺族らがSNSに投稿する事例も増えた。

 2月7日にある医師の死亡が報じられたことで、同様の傾向はより強まった。この33歳の李文亮医師は、昨年12月末にいちはやく新型コロナウイルスの流行に警鐘を鳴らしたことで「デマを流した」と処罰され、やがて本人もウイルスに感染して死亡した人物だ。

李文亮医師の死を悼み、武漢の病院の外に手向けられた花束 ©AFLO

 彼の理不尽な処罰と感染死はウイルスの流行の発生当初の当局の隠蔽体質を象徴するものと言ってよく、中国のネット上では(従来は反体制的ではなかった人も含めて)「李医師にノーベル平和賞を」という声まで出ている。

 中国のSNS・微博には言論の自由を求めるスレッドが立てられて多くの反応を集め、名門大学の教授や弁護士らが情報隠蔽の停止や言論の自由の実現を求める公開書簡を発表する例が複数出ている。いずれも昨年までの中国では、かなりの勇気を要した行動である。

すでに「都市封鎖」は70以上――「偉大な祖国」はダメダメだった

 武漢市内や湖北省内では、ウイルス禍による医療体制の崩壊と社会混乱、当局に対する不信感の強烈な高まりのなかで、他にも一般市民が従来の禁忌をあえておかすケースがあらわれている。