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中国「GDP成長率0%」と人民のイライラ 新型肺炎で終わる「中国スゴイ」の幻想

2020/02/12
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習近平失脚の可能性は?

 ただ、現在のウイルス禍が、これまで習近平の方針にいやいや従っていた一部の官僚やメディア関係者の心をさらに冷めさせているのは確実だ。今後の「秋後算賬」に対する庶民の反発もかなり強いだろう。これまで社会を包んでいた「中国夢」の甘い時代は、今回の事態によっておそらく終わる。

 もちろん今回の件だけで習政権は倒れない。ただ、数年後あたりに再びなんらかの大規模な突発的事件(地震やデモなど)が起こった場合、現在のウイルス対応問題が習近平失脚の伏線になる可能性も、それなりに高くなったように思える。

 毛沢東死後の1976年10月、実権を握る四人組を打倒した華国鋒や葉剣英らのクーデターは、庶民から支持された。中国人の価値観では、反乱には天下万民に対するなんらかの大義名分が重視される。今回、習近平は彼を引きずり下ろしたい勢力に対して、「民を苦しめた疫病蔓延の責任者」という非常にわかりやすい大義名分を与えてしまった。

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四人組を打倒した翌1977年、毛沢東の一周忌集会に出席した華国鋒(中央)と葉剣英(中央右)。中央左は鄧小平 ©getty

「災厄が終わった時――」

 禍福はあざなえる縄のごとしだ。たとえば前回のSARSの流行は結果的にアリババの台頭を生み、近年の中国社会のスマート化のきっかけを作った。人々が屋内にいたままで商品を購入するニーズが高まり、従来は不信感が強かったオンラインショッピング市場が一気に人気を集めたためだ。近年のイノベイティブな「キラキラ中国」の出現は、SARSが流行しなければずっと遅れていたはずである。

 新型コロナウイルスの流行も、中国で先進国を大幅に上回るリモートワークのシステムが確立されて全世界的な働き方改革のきっかけになったり、ウイルス感染者の追跡に役だったことで中国の監視社会化に対する庶民の評価が現在以上に高まったりと、思いもよらぬ結果を生むかもしれない。

 人間は忘れっぽいので、もしかするとウイルス収束の3カ月後くらいには一切がなかったことになり、人々が「中国の夢」に酔う社会が復活する可能性もある。ことに中国であれば、これも意外とあり得るシナリオだろう。

2015年11月、ニューヨーク証券取引所に登場したアリババの広告。2020年1月現在、アリババの時価総額は5000億ドルを上回り世界第8位についている ©iStock.com

 ただ、習近平政権が発足以来で最大の危機に立たされたことも確かだ。最後に『復活の日』から、私がいちばん好きなパートを引用してこの原稿を終えておこう。

“「──それよりも、このどたばたが終ったあと社会の勢力関係がどうなるかを考えといた方がいい(略)」”

“終った時──老人たちは、大ていこの災厄が終った時のことを考えていた。老人たちは災厄に出あった経験を豊富にもち、それがどんな形で終るか、終ったあと、どんなことになるかも知っていた”

“終った時──誰しも、この災厄が、いつかは終るものと考えていた。「人類」にとって、災厄というものは、常に一過性のものにすぎない、と”

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