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あの対局場は、暖房がきつくて……

――対局で着ていた明るい紫のベストですね。きれいな色だと評判でした。

高野 普段は、温度調節のために途中から着るようにしているんですが、あれでお腹を隠せばいいやと。

――最初からベストを着ていたのは、ベルトを忘れたのを隠すためだったんですね。

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高野 ただね。あの対局場は、暖房がきつくて暑いんですよ。

――でもベストは脱げない。

高野 そう。こちらは一身上の都合でベストは脱げない。それでジャケット脱いだり、水を飲んだりしてしのいでいたんですが、やっぱり暑いので、昼食のとき藤井くんに「暖房止めていい?」って聞いたんですよ。そしたら「どちらでもいいです」と言ってくれました。

藤井聡太七段は、この日の勝利でB級2組への昇級を決めた ©︎共同通信社

――そんなことがあったんですか。

高野 秋から用意していたというわりには、予期せぬトラブルがいろいろあったんですよ(笑)。

あの勉強は、かなり意味がありました

――対局はどうでした? インタビューで「今までにないほど勉強している」と話しておられましたが、その勉強は活きました?

高野 活きました。最初につぶれたりもしなかったですし、あの勉強は、かなり意味がありました。おかげで事前に考えていた展開と、本譜は近いものがあります。

――ある局面になれば指したい手があると話しておられましたが、それは指せましたか?

高野 指せました。48手目の4四角です。

――それでは、あの角打ちあたりまでは、うまくいっていた。

高野 そうです。ある程度、想定の範囲です。

 今までにないほどの勉強が活きて、指したい手も指せた。途中までは、ある程度、想定通りの局面に進めることができた。そんななか、唯一、悔やむ一手があったという。それが、58手目の3七歩成。敵陣に歩を成り捨てた手である。

――歩を成り捨てて同金と取らせることで、藤井玉から守りの金を遠ざける一手ですよね。あれが悪い手だとは、解説などでもあまり見なかった気がします。

高野 ほとんど指摘されていないと思います。ただ、なんとなく手の流れで成り捨ててしまったのですが、いろいろ検討してみると、あれでものすごく差がついてしまった。

©文藝春秋

――せっかくあそこまで伸ばした歩なのだから、もうちょっと使い道があった?

高野 あとからでも入ったんですよ。ただ、それよりも罪が重いのは、余計な一歩を藤井くんにあげちゃったこと。これで攻めがずっとつながってしまったんですよ。後の攻めを見ても、歩が一枚あるかないかで、全然違った。

――では、この歩の成り捨てをせずに、後の銀桂交換になっていれば……。

高野 いい勝負だったと思います。ほぼ互角だったかと。ただ正直あの程度のミスで、これほど差がつくとは……。

――それくらい藤井七段の指し手が巧みだと。

高野 3七歩成は悪い手だと思いますが、それ以外は、私はノーミスというか、私の精一杯でした。それなのにここまで差が開くということは、藤井くんは、ひとつのミスもなかった可能性がありますね。