第13回朝日杯将棋オープン戦で、千田翔太七段が自身初の棋戦優勝を果たした。前回及び前々回優勝の藤井聡太七段は準決勝で千田に敗れ、3連覇を逃した。準決勝、決勝が行われた2月11日の模様を追ってみたい。

千田はほとんど時間を使わずに指し進めていく

 準決勝の組み合わせは藤井七段―千田七段と、永瀬拓矢二冠―阿久津主税八段戦。本棋戦は準決勝から舞台上で公開対局が行われることになっている。開始の10時半を前にして、すでに会場は将棋ファンで埋め尽くされている。また別室では木村一基王位と上田初美女流四段による大盤解説会が行われる。

朝日杯将棋オープンの準決勝・決勝戦は、将棋界では珍しい公開対局として行われる

 多くの報道陣に囲まれた藤井―千田戦は角換わりに。文春将棋のインタビューで高野秀行六段が角換わりについて「プールでどこまで早く泳げるか選手権」と語っているが、特に序中盤の知識が問われる戦いである。用意の順があったか、早指し棋戦ということもあり、千田はほとんど時間を使わずに指し進めていく。

ADVERTISEMENT

戦型は最先端の角換わり腰掛け銀となった

 一方、永瀬―阿久津戦は記録係が使用するタブレットにトラブルがあり、やや遅れてのスタート。そのせいでもないだろうが、相掛かりとなった本局は序盤からスローペースを思わせる戦いになった。

「藤井君にとっては、一番のピンチかもしれませんね」

 大盤解説会には、藤井の師匠である杉本昌隆八段がゲストとして登場。藤井―千田戦について「この形は藤井君と研究会で指したことがある」と語る。

 そして局面は終盤の入り口を迎えた。すでに1分将棋に入っている藤井に対し、千田は40分の持ち時間をまだ5分しか使っていない。こんなところまで研究しているのか、と思わせる進行だが、千田によると「他に変化の余地がなく、踏み込んだらこうやるしかない順」という。そしてようやく千田の手が止まった局面について、「藤井君にとっては、これまでの朝日杯で一番のピンチかもしれませんね」と杉本八段。事実、両対局者もその局面では千田の優勢を感じていた。

対局を振り返りながら談笑する藤井聡太七段と師匠の杉本昌隆八段

 こうなっては、いかに藤井といえども粘れない。得意の終盤力を発揮しようにも、前提条件が悪すぎる。間もなく終局し、両者が大盤解説会場に姿を現す。千田は「藤井さんに勝っての決勝なので、決勝でもいい将棋を指したい」と次戦への抱負を述べ、藤井は「勝負所の分岐点で正着を指せず、形勢を損ねて粘り強く指すことができなかったのは残念。決勝を見て勉強したいです」と語った。