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「大舞台で借りを返せてよかった」藤井聡太撃破の千田翔太が朝日杯将棋オープン初優勝

「5回くらい準優勝しているので、そろそろ優勝したかった」

2020/02/15

「優勝と準優勝は、優勝と準優勝くらい違う」

 詳しい将棋ファンなら、今回の千田の優勝を意外と思う方はいないだろう。現在の棋士の実力を示している棋士のレーティングサイトで千田は上位5名に入っており、デビュー初参加の王位戦で挑戦者決定戦まで進んだ経験もある。早くから棋才を評価されていたことは間違いない。ただ、今回の朝日杯の本戦ベスト16の中で、千田はただ一人タイトル獲得・棋戦優勝の実績がない棋士だったのだ。

優勝賞金は新しいPC購入費に充てると語った千田七段

 あるベテラン棋士は「優勝と準優勝は、優勝と準優勝くらい違う」と禅問答のようなことを言っていたが、銀メダルをいくつとっても1つの金を取らなければ最上の評価はされない、何より自身が納得できないのが将棋界である。

 筆者は今回の結果を意外とは思わないが、千田を優勝の本命とは考えていなかったのも事実である。筆者が見る千田は常に冷静というか合理的な判断を下す人間と思う。ただそれが行き過ぎて、自身が認める上位者との対戦では戦う前から一歩引いているような感があった。「格下にはきっちり勝つが、格上にはなかなか勝てない」タイプだったのではないか。

ベスト4まで勝ち残った4名は、来期もシードとして本戦から出場する

千田はソフト一辺倒の人間ではない

 将棋ソフトの利用を早くから公言していることも、行き過ぎた合理主義のイメージを裏付けることに一役買ったかもしれない。

 ただ、千田はソフト一辺倒の人間ではない。「木村義雄十四世名人の実戦集を並べている」とは表彰式で朝日新聞文化くらし報道部長の山口進氏が語ったエピソードだが、歴代名人の棋譜を全て並べているのではないかという話もある。そして将棋会館に姿を現す数でも、千田より多い棋士はそうはいない。モバイル中継で対局をみて、それでよしとはしないのだ。

 また、現在の棋界における問題点への改善にも積極的に取り組んでいる棋士の一人だ。色々なことにつけて善かれ悪しかれ「なあなあ」でまかり通っているフシもあるのが将棋界だが、千田はそれを潔しとしない。理事や先輩に対しても、臆せずに言いたいことは言う。

藤井聡太七段にとっては、朝日杯将棋オープンで初の敗北となった

 ある年の棋士総会の直後、筆者は千田を含めた数名の棋士と呑んでいた。当然話題は数時間前の話である。場が熱を帯びてきたタイミングで、なんと隣の席に理事一同が続々と姿を現した。さすがに味が悪いから河岸を変えようかという話にもなったが、「聞かれて困ることは言っていません」(これはその通り)と。内面には熱いものを持った棋士なのである。

 今回の優勝で、更なるブレイクを果たすのではないか。より一層の活躍を期待したい。

 写真=杉山秀樹/文藝春秋

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