昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

特集観る将棋、読む将棋

「大舞台で借りを返せてよかった」藤井聡太撃破の千田翔太が朝日杯将棋オープン初優勝

「5回くらい準優勝しているので、そろそろ優勝したかった」

2020/02/15

阿久津は「前回は若手代表という感じでしたが……」

 藤井―千田戦が終局した頃に佳境を迎えていた永瀬―阿久津戦は、両者ともに自身の模様の悪さを感じていたが、終盤で永瀬が抜け出した。「序盤はうまく指せましたが、中盤でのポイントの挙げ方がどうだったか。次にそこを改善できればと。決勝は皆さまに見て良かったと思えるような将棋を指したいです」と永瀬は語った。

 阿久津は「(優勝した第2回以来)11年ぶりの公開対局は楽しみでした。前回は若手代表という感じでしたが、まさか今回、圧倒的最年長になるとは」と語って、会場の笑いを誘う。「序盤は不本意な展開でしたが、中盤では盛り返せたと思います。ただ、そこからの進行が、今の永瀬さんの充実ぶりを示していますね。またこの会場に対局者として戻ってこれたらと思います」と振り返った。

来場したファンに大盤解説をする木村一基王位と上田初美女流四段

 木村王位は準決勝の両対局について「藤井―千田戦は角換わりの最先端で研究がものをいう将棋ですが、本局は終盤に細やかさが現れた一局です。永瀬―阿久津戦は両者のセンスが出て、プロが見て勉強になる将棋でした」と総括した。

プロでも意見が割れる戦いに

 決勝開始は14時半。前局に続いて先手を引いた千田は、またも角換わりを目指す。対して永瀬も真っ向から受けて立った。局面は先手が勢いよく攻めているようだが、後手には駒得という実利がある。また、まとめにくい態勢でうまく組み立てられるかという永瀬らしい指し方となった。

振り駒の結果、決勝戦でも千田翔太七段の先手となった

 大盤解説会には、敗退した阿久津八段と藤井七段も登場。「攻めている先手を持ちたい」と両者の見解が一致した。対して木村王位と杉本八段は後手持ちと、プロでも意見が割れる戦いとなっている。

 両者が時間を使い切り秒が読まれている最中、永瀬玉が中段へフワリと逃げだした。「中段玉寄せにくし」の格言もあるが、千田は「秒読みで中段玉を捕まえるのは大変という懸念があった」と明かす。

 だがその直後、永瀬に痛恨のミスが生じる。これを的確にとがめた千田が優勝の栄冠を勝ち取った。終局直後にファンの前では「藤井さんに勝って決勝で負けると何を言われるかわからないのでホッとしています」と語り、会場はどっと沸いた。

 永瀬は「最後はダメにしたが、終盤の距離感など、自分の課題が見えた」と振り返った。

千田翔太七段と永瀬拓矢二冠は、ともに順位戦でB級1組に在籍している

「そろそろ勝っておかないと」

 改めて表彰式が行われ、千田が壇上に立つ。

「いままで5回くらい準優勝しているので、そろそろ優勝したかった、2位のコンプリートは避けたいと思っていました。準決勝の藤井戦に臨んでプレッシャーがありましたが、よく考えてみると向こうは前回優勝者、こっちはチャレンジャーという立場。それに気が付くと落ち着いて指せました。

 決勝の永瀬さんは思い出したくないくらい負けている相手で、藤井さんにもそうだけど、そろそろ勝っておかないと、という思いがありました。今後しばらくは色々な舞台で指し続けていく相手だと思うので、今回のような大舞台で借りを返せたのはよかったです。この2人に勝っての優勝は価値があると思います」