英語以外の作品として初めてアカデミー賞作品賞を受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」。半地下の部屋で貧しい生活を送るギテク(ソン・ガンホ)の一家と、IT企業を経営する裕福なパク社長一家の対比が描かれているこの作品には、日本人には分かりにくい韓国ならでは事情が登場する。
先に公開した文春オンラインの記事(「アカデミー賞作品賞『パラサイト』を観たら知りたくなる韓国“不平等”社会『5つの疑問』に現地記者が答える!」)に引き続き、韓国国外の観客にはわかりにくいポイントについて紹介したい。(*以下の記事では、映画の内容が述べられていますのでご注意ください)
疑問1 なぜ韓国でボーイスカウトは人気があるの?
インディアンに憧れるパク社長の息子は、カブスカウト(小学生ボーイスカウト)に加入している。ギテクの息子で、パク社長の家で家庭教師として働くギウも、映画後半でボーイスカウト出身であることが明かされる。ボーイスカウトは韓国でそんなに人気なのだろうか?
1908年に英国で創設されたボーイスカウトは、現在170カ国で運営されて、韓国でも約13万人の青少年が活動している。具体的には野外活動などを通して冒険心とチームワークを育むほか、多様なボランティア活動も行う。
このボーイスカウトが韓国でポピュラーなのは、中高や大学の入学試験で大事な「スペック」となっているからだ。
スペックとは、入試や就職に必要な資格やスキルのこと。韓国では、難関の中・高校でもペーパーテストなしで、選考は「内申書」と「自己紹介書」だけというところがほとんどで、最も重要な資料となる「自己紹介書」に書き込めるクラブ活動やボランティア経歴が必要になる。ボーイスカウトの活動歴は、その一つとなるのだ。また内申書対策としても、「ボランティア活動」で内申点が得られるため、一挙両得になる。
ただ最近、ボーイスカウトは人気を失いつつある。野外活動などで時間を使うボーイスカウトに対して、試験勉強だけでも大忙しの子供たちの時間をさらに奪われると考える親が増えているためだ。
ボーイスカウトで得られるボランティア活動の内申点も、むしろ短時間で終わる社会団体の活動の方が効率的だと思われている。さらに、大学入試の自己紹介書を廃止する改革案が教育省から発表されており、実際に廃止となればボーイスカウトの人気はさらに下火になるだろう。
興味深いのは、半地下に住む一家の息子であるギウが、ボーイスカウト出身という点だ。ボーイスカウトは1年の会費だけでも数十万ウォンに達し、ユニフォーム代や日々の活動費、海外研修費など、親にとっては相当な経済的負担になる。
無職の両親と半地下部屋で暮らしているギウが幼い頃ボーイスカウトだったという設定は、この家族が最初から貧困層なのではなかったという伏線だと言える。