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オスカー4冠「パラサイト」に隠された日本人は知らない「韓国“下剋上”社会の常識」 現地記者が解説

「半地下の一家は貧困層ではなかった?」「台湾カステラ屋って何?」「社長夫人はなぜ英語交じり?」

2020/02/23

source : 週刊文春デジタル

genre : エンタメ, 社会, 経済, 働き方, 国際, 映画

疑問2 ギテクが失敗した「台湾カステラ屋」「チキン店」って何?

「半地下の家族は、最初から貧困層なのではなかった」という背景は、一家の大黒柱、ギテクの過去からも窺える。

 ギテクは過去、2度も商売に失敗し、無職になった。一つはチキン店で、もう一つは台湾カステラ屋だ。ギテクが選んだこの2つの業種は、特別な技術がなくてもある程度の資金さえあれば、フランチャイズで簡単に店を始められるという共通点がある。

 まず、フライドチキンを扱う「チキン店」は、韓国で最もポピュラーな外食店だ。開業する場合、材料や調理マニュアルはすべてフランチャイズの本社が提供し、内装業者も本社が紹介してくれる。店舗を確保し、フランチャイズ費用さえ支払えば、誰にでも開業できる。統計によると、2019年2月時点で韓国のチキン店は約8万7000店もあり、マクドナルドの全世界の店舗数の約2.4倍にもなるという。その分、競争は熾烈だ。

半地下の部屋で食事をするギテク(左)と妻のチュンスク 『パラサイト 半地下の家族』より © 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 一方、「台湾カステラ屋」は、台湾・台北近郊の淡水区の有名なお土産で、その場で焼きたての大型カステラを切り分けて販売する。台湾では「シフォンケーキ」と呼ばれているが、日本のカステラに似ていることから、韓国では「台湾カステラ」と呼ばれている。

 台湾カステラ屋も初心者が簡単に開業できることで知られ、フランチャイズなら本社で1週ほど製造手法を学んだら、すぐに開店できる。単一品目しか扱わないので管理も容易である。韓国では2010年代半ばに起きた「台湾ブーム」で人気を集めるようになり、2016年には韓国国内に17種類のフランチャイズが存在し、計400店が営業していたほど人気を集めた。

 しかしブームから1年ほど経った2017年、卵、小麦粉、牛乳、砂糖以外は何も入れないことが売りだった台湾カステラに、食用油と添加剤を使用していたことがテレビ番組で暴露されて、飽和状態だった台湾カステラ屋は、急激に衰退。いまではほとんど店舗を見かけなくなった。台湾カステラ屋は、韓国で最も短期間で消えた外食産業として知られている。

 韓国の自営業者は全雇用形態の約25%を占め、日本の2.5倍に達している。OECDの平均の17%より8%も高い。その理由は、企業からリストラされた中年男性が、最も簡単に再就職できる飲食業など零細自営業に流れているからだとされている。

 ギテクも企業に勤めて、ある程度の水準の生活をしていたにもかかわらず、退職後にきちんとした準備もないまま、初心者にもできる「チキン店」「台湾カステラ屋」のフランチャイズ店に手を出したことが窺える。ギテクの2度にわたる失敗で、家族は半地下での生活にまで落ちてしまったのだろう。

 この中高年の「チキン店」をめぐる悲哀については、拙著『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)でも詳しく解説している。