疑問5 格差社会を描いた「パラサイト」の成功を、韓国人はどのように受け止めているか?
作品賞を始めとした主要4部門でアカデミー賞を受賞した「パラサイト」の成功は、韓国社会に大きな喜びを与えた。日本はもちろん、アジアのどの国でも成し遂げられなかった今回の快挙は、韓国が誇る「K-コンテンツ」の底力を世界に示した“事件”とみなされている。「映画界のノーベル賞を取った」などの表現が登場したほどだ。
「パラサイト」フィーバーは、4月に総選挙を控えた韓国政界にまで拡大している。文在寅大統領は、ポン・ジュノ監督をはじめとするパラサイトチームを大統領府の昼食に招待して、映画の中の人気メニューである「チャパクリ」でもてなした。
この席で、文大統領は、「映画が見せてくれた社会意識について深く共感する」「不平等を解消することを最大の国政目標としているが、反対も多く、早く成果が現れないので焦れったい」と、自分の経済政策をアピールした。
総選挙に出馬する候補の間でも、「『パラサイト』マーケティング」が人気を集めている。ボン監督の故郷、大邱(テグ)地域から出馬する候補らは、「ポン監督の生家の保全」「ポン・ジュノ博物館建設」「ポン・ジュノタウン造成」などを公約に掲げている。与党「共に民主党」も、「第2のポン・ジュノを育成する」として、多彩な文化産業育成政策を党の公約として掲げている。
しかし、このフィーバーに便乗して、ソウル市が映画のロケ地を巡る「パラサイト」ツアーを観光商品として売り出していくというニュースが流れると、韓国社会では「貧困ポルノでは?」という反発が出た。
「朝鮮日報」によると、映画に登場した庶民の住む町のモデルとなっているのは、麻浦区阿峴洞(マポグ・アヒョンドン)の一帯。その付近の住民の間では、「我々に貧民層だと烙印を押した」という反発が出ているという。進歩政党である正義党は、声明を出し、「パラサイトのロケ地を観光コースとして開発することは、貧困の風景を商品化し、展示の街にするということだ。それ以上でも以下でもない」と批判した。
海外メディアが韓国の「半地下」住居の取材に熱を上げる姿に対しても、批判が集まっている。「韓国社会の格差問題への拡大解釈を警戒するべきだ」という主張も出始めている。
韓国最大の通信社「聯合ニュース」は、「半地下部屋は、かつて一時的に広がったが、今は歳月とともに消えつつある住宅の類型。これを改めて韓国の貧富の格差を示す証拠であるかのように拡大解釈するのは適切でないという指摘が出ている」と伝えている。大きすぎる海外からの反響に、メディアや国民の間にも戸惑いがみられている。