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《新海誠監督インタビュー》“三流SF”のような現実の中で僕らが出来ること

「君の名は。」「天気の子」を生み出した創作の原点を語る

2020/03/06

作ってみた「波紋」の先にあるもの

 20年前、一人で作品を作っていた新海監督は、現在はチームで作品を作るようになっている。

「コミュニケーションにコンピュータを使うのは、時流というか当然というか……。例えば『天気の子』では、チームのコミュニケーション手段にSlackを使いましたが、それは時流がそうだから、という理由が強いです。今もパソコンについては、事務機器やコミュニケーションの機器というより、個人をエンパワーメントするもの、という意識の方が強いですね。

 僕がパソコンに最初に触れた時に比べると、今はもっと日常品化している気はします。季節ごとに洋服を着替えるような印象もあります。だから、1台1台への愛着は薄くなっているような気はします。それは、スマートフォンも含め、コンピュータの存在がよりパーソナルなものになったからだとは思うのですが」

 

 コンピュータがパーソナルな存在になり、ツールが進化し、YouTubeのような動画共有サイトも生まれた。結果として、映像作品を作って発表するためのハードルは劇的に低くなっている。

 筆者は映画監督や映画のプロデューサーなどにインタビューする際、このことについて毎回訊ねることにしているが、彼らは口々に「私たちが若い頃よりも状況は良くなった。うらやましい」と言う。

「いつでもできる。なら、なにを迷う必要がある?」

 彼らの答えは同じだ。新海監督もそれに同意しつつ、ひとこと、別の切り口を付け加えた。

「今の学生については、『大変になってきたな』と同情的に思っている部分もあります。

 もちろん、同時にすごくいい環境にいるな、とは思うのですが。MacなりiPadなりは、プロも制作に使っている道具です。コンピュータ黎明期に、コンピュータを作った人々が夢見た未来が到来した、ということだと思います。『作りたい』という強いモチベーションがあれば作れてもしまうし、それを流通させることもできてしまいます。

 ですから『作らない言い訳』がたたなくなっている。

 

 結果としてですが、『あなたは本当は何者なのか』『あなたはなにがしたいのか』を真に問われる時代になっています。それはとても美しいことであると同時に、しんどい時代なんじゃないかと。

 枠組みが内容を作る、ということもあると思うんですよ。サラリーマンをやってきて、その枠の中でなにかを見つけた結果アウトプットできる表現もあるでしょうし。あるいは、不自由な道具を使い続けてきたからこそ生み出される表現もあるでしょう。制限が限りなくなくなってきたので、最初から『自分』が問われる、という意味ではハードルが上がったな、と思います」

 だが、それは「自分が問われるので躊躇しなさい」という話ではない。

「ですが、これだけ制作や流通のハードルが下がったんですから、その一歩を踏み出せばいい、とも、同時に思います。

 踏み出すことで、『見向きもされない』とか『一斉に叩かれる』こともあるかと思います。水面に石を投げれば波紋は広がるものです。いろんな波紋にさらされるとは思うのですが、そういうコミュニケーションこそ、あなたが欲しいものなんじゃないか、と思うんです。

『作ったものの先にあるなにか』が欲しくて、人は作るんじゃないかと。はじめてみる、飛び込んでみるしかないんでしょうし、恐れずにやってみる。なにか言えるとしたら、それしかないです」

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