第78期A級順位戦の最終戦。いわゆる「将棋界の一番長い日」は今年も静岡県静岡市の「浮月楼」で行われた。
浮月楼は江戸幕府最後の将軍である徳川慶喜が、大政奉還後に住んでいた屋敷跡である。当地でのA級順位戦の開催は2014年の第72期から始まり、途中に3年間のブランクを挟んだものの、今回で4回目となる。将棋ファンにはすっかりおなじみのイベントである。
【前編を読む】
2月27日、木曜日。
午前8時頃にホテルの朝食会場に下りていくと、見知った人たちが思い思いの場所で食事をとっていた。ビュッフェ形式はそのときの体調に合わせて量を調整できるのでありがたい。もっとも、大事な本番の前日に飲み過ぎるような人はいないと思うけれども。
私はご飯をよそった後にカレーの存在に気づき、写真のような不思議なプレートとなった。右下の納豆も異質に思われるかもしれないが、これはさっき佐藤康光九段の姿を見て追加したもの。納豆をこよなく愛する佐藤九段には「納豆はデザート」の名言があり、パン食でも納豆を食べるという。
棋士には「納豆=粘り」という意識があるのか、愛好者がとても多い。なかには例外もいて、受けの達人であるところの木村一基王位は納豆が苦手だ。先崎学九段のとあるエッセイでは「木村の血液には納豆の成分が入っているのではないか」というようなことが書かれていたが、納豆がなくても強いものは強い。
「何これ? 何ていう戦型なの?」
ここでA級最終戦を迎えての成績を振り返っておこう。控え室の入り口に貼ってあったものをおかしな角度から撮影したためナナメになっているが、内容に曲がりはない。各々が必死に戦ってきた結果である。
控え室の奥にはモニターが設置されており、対局室の様子と棋譜中継のウェブページが見られるようになっている。5局分が並ぶ様は壮観だ。
最初のうちは離れた場所から眺めたり、継ぎ盤で検討しながら横目で見ているが、終局間近になるとモニターの前にわらわらと人が集まってくる。それもまた一番長い日の恒例の光景のひとつだ。
私が新聞観戦記を担当する▲佐藤天彦九段-△稲葉陽八段戦は、矢倉の出だしから早めに飛車先を交換する相掛かり風の展開に進み、その後は横歩取り~角換わり模様になっていくという、実に欲張りな戦型となった。ビュッフェでこんなに取ったら胸焼けするに違いない。
序盤戦術の解説に長けており、教授と呼ばれる勝又清和六段でさえ「何これ? 何ていう戦型なの?」と周囲に聞いていたから、きっとこれから流行していく、令和の新たなる将棋なのだろう。