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「男子に勝てたらすごくカッコいい」若きボートレース女王・大山千広が見据えるSG優勝への道

圧倒的なクールさで最高峰を目指す

2020/03/08
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 その日のボートレース戸田は、春一番が吹き荒れていた。

 強風の中で行われていたのは、翌日からのレースを控えた前日検査だ。

レースでの操縦術と同じくらい大切な調整作業

 ボートレースの場合、出場者は通常4~6日かけて行われるシリーズ(節)の前日には会場に集合しなくてはならない。私物検査や身体検査などを受け、全レーサーが集まると、レースの要となるボートとモーターの抽選を行う。ボートとモーターを受け取ると、本番に向けて試運転やスタート練習、タイム測定などを行いながら微調整を加えていくのだ。

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 そんな前検を、大山千広は実に淡々とこなしているように見えた。

ボートやモーターの整備・調整も、すべてレーサーが自分で行う ©石川啓次/文藝春秋

 男子レーサーに混じりながら、与えられたモーターを前に黙考し、部屋を移動しながらプロペラを叩く。時折記者に声をかけられ笑顔を見せることこそあったが、相好を崩すというほどではない。

「紙一枚の厚さが変わるだけで、走りがまったく別物になる」というプロペラの調整は、レースでの操縦術と同じくらい、大切な作業でもある。制限時間内で作業を終えなければいけないだけに、中には焦りの表情を浮かべるレーサーもいた。大山の落ち着いた立ち回りは、かえって目を引く瞬間も多かった。

女子選手として史上初の快挙

 ボートレース界の最高峰・SGレースへの出場、そしてG1(レディースチャンピオン)での初優勝、年間賞金女王の獲得――。大山にとって、レーサー5年目を迎えた昨シーズンはまさに飛躍の1年間だった。

2019年のレディースチャンピオンではG1初優勝を果たした

 現在開催中のG2レディ―スオールスターのファン投票では、次位に約1万票差をつける2万6737票という圧倒的な支持を集めている。また、男子レーサーも含めたSGボートレースオールスター投票でも、昨年4位から2ランクアップの2位を獲得。女子レーサーとして史上初の快挙となった。

 その端正なルックスとも相まって、テレビや雑誌といった一般のメディアに取り上げられることも増えた。それでも、本人の持つ実感は周囲の評とは少し違っているという。