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2020/03/08

重圧をコントロールするために行う“ルーティン”

 そんな大山の姿勢はレース前のルーティンにも現れている。

「レース前は、ある程度まで自分にプレッシャーをかけて、ストンと抜きます。最後は『ここで負けても良い勉強になるし、勝っても良い勉強になる。失敗したこともそれはそれで次に活かせるし、負けても死ぬわけじゃない』と思って、重圧を抜いて行きます。その辺は意識的にやっています」

2019年のレディースチャンピオンでターンを旋回する大山

 ボートレースのスタートは、0.01秒の差が勝敗を分けるきわめてシビアな瞬間だ。もっともプレッシャーを感じるレース前に、その重圧をコントロールできるというのは、自分を俯瞰して見られないとなかなか難しい。自分を主観的にではなく客観視する能力が非常に高いのだろう。

「スタートの直前もお客さんの声って聞こえるんです。でも、その瞬間は『無』になるように意識しますね。だから無視します(笑)。深呼吸をして、冷静に気持ちを落ち着かせることに全力を尽くします。スタートまでの時間を口に出してカウントダウンしてみたり……」

 自分に必要なものと足りないものをシビアに判断し、淡々とそれを次に活かすことができる――。そんな能力こそが大山の躍進の理由だったのではないだろうか。

©石川啓次/文藝春秋

力で勝てるレーサーになりたい

「目標ですか? きれいなレースをできるレーサーになりたいですね。勝ち方にもいろいろありますし。もちろん勝負なので、ある程度厳しいことをやったりもしますけれど、もっと自分に力があれば、そんなことをしなくても勝てるレーサーになる。力で勝てるレーサーになりたいですね」

 だからこそ、ふと思う。

 仮に近い将来、大山が悲願である女性レーサー初のSG制覇という栄誉をその手中にする瞬間があったとして。その瞬間の大山は歓喜を叫び、大きなガッツポーズをするだろうか?

 多分答えは「否」だと思う。

 きっと大山は、その瞬間すら淡々と超えていくような気がしてならない。

©石川啓次/文藝春秋

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