前回で本連載は二百回となった。この二百回、メーカー側から参考用のソフトを提供されたことは一度としてない。
旧作邦画のソフトを出す各メーカーの関係者が告知媒体の少なさを嘆く声は耳にするだけに、ここをもう少し利用してくれてもいいのではないかと思ったりするのだが……。
などと考えていたところ、先日ついに見本DVDが届いた。送り主は東宝。さすが日本最大の映画会社。太っ腹!
そこで今回は東宝から発売になったばかりの『いのち ぼうにふろう』を取り上げる。『人間の條件』と同じく小林正樹監督、仲代達矢主演による傑作時代劇で、長らくソフト化が待ち望まれてきた。
舞台は江戸の深川。水路が張り巡らされた草深い一帯には「島」と呼ばれる奉行所も手出しできない中洲があり、そこにある居酒屋「安楽亭」は密貿易の中継地点。悪党たちが日夜たむろしていた。
その悪党たちを演じる役者陣が凄まじい。仲代を筆頭に、中村翫右衛門、佐藤慶、岸田森、草野大悟、近藤洋介、山谷初男、そして勝新太郎。揃いも揃ってクセ者ばかりだ。それぞれに魅力的なのだが、中でも、ヒゲ面で野太い声のまま女性のような物腰を見せてくる草野と、爽やかなお人好し役の佐藤は、従来のイメージと対極的な配役で特に印象深く、一筋縄でない複雑な人間性がより際立っていた。
そして、さらに強烈なのが山本圭だ。佐藤慶に命を救われて安楽亭に匿われる青年役だが、山本圭が演じるのだからそれだけでは終わらない。
物語終盤、身売りされた彼の恋人を救う金を作るために悪党たちは命がけの戦いへ赴く。だが金を得ることができた青年はそのまま「島」を出ずに、なぜかそれを報告しに、捕り方に囲まれる安楽亭へ戻ってきてしまうのだ。このままでは彼のため命を落とした悪党たちは犬死になる――。
このトンチキな行動を演じる時の、事の重大さがまるで分かっていないような山本の底抜けに爽やかな笑顔が、見る側に途方もない脱力感を呼び起こし、同時に作品タイトルの意味を痛感させられる。
そして、ここからさらに本領発揮となる。悪党たちは彼を逃がすため、敵中突破の突撃に出る。この時も、死闘を繰り広げる仲代たちがヒロイックな一方、山本はひたすらオロオロ。危機に陥っては立ち止まって悲鳴を上げるので、その度に捕り方に追いつかれて危機が広がる。そんなヘタレ極まりない男を山本が抜群に真に迫って演じるものだから観客の苛立ちは増大。そのことが立ち回りの緊迫感を極限まで高めていくことになる。
DVD化を機に多くの方に見てもらいたい、名演である。