「無観客で良かったわ!」

 審査員の陣内智則がななまがり・森下のネタを見終わって思わずそう叫んだ。森下は、上半身裸になって自分の乳首を自ら隠そうとするが、意に反して(?)、乳首を隠すことができないというあまりにもくだらないネタで最高だった。もし例年どおり、観客がいれば悲鳴があがってしまいそうだ。けれど、この日の『R-1ぐらんぷり』(フジテレビ)は新型コロナウイルスの影響で異例の無観客。鳴り響くのはスタッフや審査員の笑い声だけ。芸人の晴れ舞台といえる賞レース番組としては少し寂しい状況になってしまったのだ。

 そんな中で圧倒的な存在感を見せつけたのが、マヂカルラブリーの野田クリスタル。ピン芸の『R-1』、コントの『キングオブコント』(TBS)、漫才の『M-1グランプリ』(テレビ朝日)と、各ジャンルの代表的賞レース番組3つで決勝進出を果たした唯一の「トリプルファイナリスト」だ。普段コンビで活動する芸人が『R-1』に出場した際、コンビでのネタをひとりでやるようにアレンジしたネタで勝ち進むことが少なくないが、彼は違った。昨今、野田といえばゲーマーとしても注目を浴びている。ゲームバラエティ番組『勇者ああああ』(テレビ東京)に度々出演し、そのゲーム愛を語り、自作のゲームを紹介。実際にゲームアプリをリリースもしている。野田は今回の『R-1』予選から自ら巨大モニターを持ち込み、そこで“ゲーム実況”を行った。通常、ゲーム実況は既存のゲームで行われるもの。だが、それではお笑い芸人としてのネタとしては認められないだろう。対して野田はゲーム自体も自作し、唯一無二のピンネタを生み出したのだ。

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マヂカルラブリーの野田クリスタル(左)と村上

 野田がプレイしながら、そのゲーム設定のおかしさや難易度の高さに翻弄されていくのが面白い。通常、こうしたモニターを使ったネタは、事前に撮った映像等を使うことが多い。それに決まったタイミングでツッコミを入れる。そうするとどうしても段取りっぽく見えてしまいがちだ。だが、野田のこのネタは、実際にその場でプレイしている。だから、操作をミスして想定とは違うことも起こってしまう。その臨場感こそ、ゲーム実況の醍醐味であり、このネタの面白さに繋がっているのだろう。無観客で収録していたお笑いネタ番組『あらびき団』(TBS)で鍛えられたという野田の、時に客を置いていくことを厭わない程のメンタルの強さが奏功した。ちなみに『R-1』前週に放送された『勇者ああああ』では、昨年発売のゲームの中から勝手に大賞を決めるという企画で野田は地上波にもかかわらずゴリゴリのエロゲーを熱烈にプレゼン。それが「ゲームオブザイヤー」に満場一致で選ばれていた。強い。

INFORMATION

『R-1ぐらんぷり2020』
フジテレビ系 3/8(日)放送 19:00~
http://www.r-1gp.com/