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94歳の料理研究家・桧山タミ先生はこんなものを食べてきた《レシピ付き》

50歳を過ぎたら腹六分目

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50歳を過ぎたら腹六分目

 健康でいるために、気候や体調に合わせて献立を考えることも大切にしている。

  「たとえば、夏場の冷房負けで食欲が落ちているときには、胃腸にやさしくて滋養もある冷や汁がおすすめです。冬の寒い日に出かける家族には、特製のニンニクスープ『ソパ・デ・アホ』を飲ませて送り出して。体の芯からポカポカして冬でも汗をかいて代謝があがり、元気が出ること請け合いです。ニンニクを潰さず丸のままコトコト煮込むスープで、臭みが出ないので日中に飲んでも平気です」

 気圧が下がると体調が悪くなるという人も少なくないが、タミさんは「気圧の谷」まで考慮して献立を考える。

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  「気圧が下がると血の流れが遅く、消化が鈍くなり、食欲も落ちて何となく気分が重くなります。気圧の谷が通った後は亡くなる方も多いそうですよ。ただ、気圧は目に見えないものですから、忙しい人たちは体に違和感を覚えながら、食べることとは結びつけずに調子を崩しがち。気圧の谷のときには、消化に時間のかかるかたまり肉や乳製品、油っぽいものは避けて、消化のいい野菜や魚、汁ものがおすすめです」

 年齢を重ねると、若い頃のように量も食べられなくなってくるが、タミさんは「腹八分目」でも多いという。

  「栄養バランスも大事だけど、年齢を重ねて気をつけないといけないのは食事の量です。食べすぎると、消化が追いつかず、腸に老廃物がたまっていくとさまざまな病気につながります、50歳を過ぎたら、腹六分目で十分。最初は少し物足りないかもしれませんが、胃袋というのは減らされた量ですぐに慣れるもの。合間にお腹が減ったらわたしはナッツや小魚を食べます。これだと我慢しなくてもいいですからね」

80歳、お手当食で足を治す

いのち愛しむ、人生キッチン
料理教室の教え子らの「先生の言葉を多くの人に伝えたい」という声で実現し、ベストセラーとなった初の著書。日々台所に立つ上で心の拠りどころになる1冊。タミ塾のレシピも収録。

 80歳の頃、足の筋を痛めて杖が必要になったが、「絶対に自分で治す」と決め、3年かけて杖が必要なくなった。

「まわりからは、『最悪動けなくなるのでは』と心配されました。自分で治そうとわたしが考えたのが『お手当食』。質の良い筋肉を作るために大切なアミノ酸をたっぷり含んだ豚足のゼラチンをとるため、豚足煮を作り、ゼラチンゼリーを味噌汁や煮物に入れて毎食摂取したんです。これを2~3年食べ続け、とうとう杖いらずに。食べることで、体は再生できるんです」

 94歳の現在も、タミさんは血圧の薬も飲まず、胃腸もすこぶる丈夫。50代後半から30年以上ほとんど医者にかかっていないという。

  「この間、小さなお友達に『タミ先生はいつまで生きるの?』と聞かれたんです。いつまで生きるのか、実はあまり考えたことがありません。『タミさん、もう来ていいよ』と神様に呼ばれたら、いつでも行くつもりです。みなさん口を揃えて『将来が不安』といいますけど、将来っていつまでのことでしょう? まだ起きていないことを不安がっても何の得もありませんよ」

  「良く生きるためには、良く食べること」と、タミさんは繰り返しいう。

  「食は『生活の一部』ではなく、一食一食が家族と自分の命をつなげる営みなんです。いくつまで生きるかはわかりませんけれど、今を存分に楽しんで気ままに生きるつもりです。あの空の向こうに天国があるかもしれないけれど、わたしはこの世も天国だなと思っていますよ」