時代とともに街並みが移り変わるのは必然でもある。わかってはいても、往時を知る者にとっては当然、寂しさもある。コンチママは淡々と続ける。
「街の様子が変わっていくのは仕方のないことだと思います。それはもちろん寂しいですよ。寂しいけれど、生きていくためにはそんなこと言ってられないじゃない。時代に合わせていくのは当然のことだから……」
半世紀にわたって「白い部屋」を切り盛りしてきた経営者としての顔がのぞく。
経営難に陥る新宿二丁目のバーは少なくない
幸いにして「白い部屋」は数多くの常連客に支えられながら、上手に新陳代謝を繰り返し、各世代にひいき筋が誕生し、連日の活況を呈している。
しかし、新宿二丁目に居を構えるバーはいずれも苦境に立たされているという。
「週末はまだマシだけど、平日の二丁目は本当にお客さんが少なくなりました。人も少ないから、お店もガラガラ。若い子たちはわざわざお店に入らなくて、コンビニでジュースを買って、その辺でたむろしているだけ。出会いもそれで済ませちゃう。それに出会い系アプリもすごいんでしょ? 『どういうタイプが好きか?』とか、『どこにいるのか?』とか、なんでもアプリでできるんだからね」
出会い系アプリが街の様相を劇的に変えた
またも携帯だ。またもアプリだ。
エピソード2で元『バディ』編集長のHIROが指摘したように、エピソード3で「香まり」の一ノ瀬文香が言及したように、携帯の出会い系アプリが新宿二丁目に劇的な変容をもたらしたのは紛れもない事実なのだろう。
あらためて、「出会い」こそ、街の活気を生み出す大きな要因なのだということを痛感させられる。そして、新宿二丁目のような、ある意味では「特殊な街」だからこそ、「出会い」は多くの人を集めるための強力な磁力となり得るのだろう。
これからの新宿二丁目をコンチママはどのように見ているのか?
問いを投げかけると、ママは即答する。
「もっともっと一般化されていくんじゃないですか?」
そして、しばらくの間を置いてからつけ加えた。
「一般化というのか、もっと言ってしまえば普通の世界になるんじゃないですか?」
先に述べていたように「淫靡さ」を誇り、ゲイを含めてLGBTそれぞれのセクシュアリティを持つ者たちが共存する街として、世界にその名が知れ渡った新宿二丁目が、「普通の世界になる」というのは驚くべき指摘だった。
「……それは寂しいですよ。だって、日本が誇る《世界の二丁目》なんですから。でも、それが時代の流れなんでしょう。観光地化されるということはクリーン化するということですからね。現にすでにクリーンな街になりつつありますから」
日本が誇る「世界の二丁目」は、はたして本当にコンチママの言うように「普通の街」となってしまうのだろうか?