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「淫靡さ」と「明るさ」の二律背反

 とは言え、「ただ寂しい」と嘆くばかりではない。街の健全化、クリーン化はこの街に、そしてLGBTの人々に大きなメリットももたらした。

「この50年間で、街は明るくなりました。その結果、ゲイやレズビアンなど、さまざまなセクシュアリティの人たちの表情も明るくなりました。お洋服とか、お化粧とか、外見上のことだけじゃなくて、内側からにじみ出る笑顔。その表情が、以前とは比べ物にならないほど明るくなったと思います。LGBT運動の成果だと思うけれど、それは本当にいいことですよね」

 かつてのように、店のドアに「男性限定」「女性客お断り」「会員制」「メンズ・オンリー」などのプレートが貼ってある店は少なくなった。

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 それだけでは店の経営が成り立たないという切羽詰まった事情があるのも事実だが、ゲイやレズビアンなどセクシュアリティにこだわらないミックスバーが増えた。ノンケの人々が気軽に立ち寄れる観光バーも増えた。外国人向け観光ガイドに掲載されたことで、国籍を問わず多くの外国人が訪れる観光スポットにもなった。

©iStock.com

 これらはいずれも、「オープン化」の成果でもあった。

「普通の……、ノンケの人たちが気軽に来られる街になったのもここ最近の大きな変化ですよね。むかしだったら、ゲイに対して『気持ち悪い』って言われることもよくあったけれど、最近ではそんなこともなくなりましたから。ノンケの人々が持つLGBTの人々への抵抗感がぐっと小さくなりました。それによって、みんなが堂々と自分のセクシュアリティを表明できるようになりましたからね。それでみんなの表情が明るくなった。うしろめたさとか、内面に抱えている重いものから解放されたから、“本当の自分”を出せるようになった。それもLGBT運動の大きな成果でしょうね」

 それまで内に秘めていた思いが解放されたことによって、本来持っていた明るさが表出されることになった。当然、うしろめたさ、やましさといったネガティブな感情は影をひそめることになる。

 しかし、それはエピソード1で長谷川博史が、そしてコンチママが口にしたように、この街から「淫靡さ」を消し去った。

「淫靡さ」と「明るさ」の二律背反──。

新宿二丁目は「普通の街」になっていく

 かつて、この街に確かにあった「秘すればこそのエロス」は、もはや望むべくもない。往時の淫靡さ、いかがわしさ、マニアックさを求める者たちは浅草に代表されるかつての匂いが残る街へと移っていく。

 一方、純粋に出会いを求める者たちは、わざわざ新宿二丁目を経由せずとも、出会い系アプリ、マッチングサイトを活用すれば、いぜんよりも早く、そして確実に出会いを手に入れることができるようになったのだ。

 気がつけば、ノンケと外構人観光客が闊歩する街へと変貌した。

 かくして、新宿二丁目は「普通の街」となり、観光地となっていく――。

 それが、コンチママの見立てだった。

生と性が交錯する街 新宿二丁目 (角川新書)

長谷川 晶一

KADOKAWA

2020年4月10日 発売