「覚悟のないまま、手術をすることだけが心配です」
性転換手術による精神の不調。それに伴う自死は見たくない──。
それが、コンチママの率直な思いである。しかし、一方では「手術をしたい気持ちもよくわかる」と言いつつも、同時に性転換手術に伴うデメリットの方がはるかに大きいということもよく理解している。
「私だって、『手術をしてでも女になりたい』って気持ちはよくわかりますよ。でも、デメリットの方が絶対に大きいんです。一緒に働いているでしょ? でも、急に黙り込んだり、落ち込んでみたり、かと思うと、逆にハイテンションになったり……。たとえば、真夏なのに『寒い、寒い』ってクーラーを止めるんです。ホルモンバランスが崩れて、体温調節ができなくなるの。人によっては、『暑い、暑い』ってなる子もいるしね……」
表情を曇らせたまま、コンチママは続ける。
「おっぱいは大きくしても、また元に戻すことはできるんです。だから、『顔とおっぱいはいじってもいい』という思いはあります。でも、《下》は一度取ってしまったら、元に戻せないから……。生まれながらに性同一性障害で苦しんでいるのはわかります。男性器が付いてることで悩んでいるのもよくわかります。でもやっぱり、デメリットの方が大きいと私は考えるんです。それでも、内緒で《玉》を取る子も多いんですけどね……」
かつては「性転換をしたらクビ」と言い続けてきたコンチママだが、「最近はもうあきらめた」という。「考えが変わった」のではない、「時代が変わった」のだ。
「私はいまでも、『性転換はするべきじゃない』って思っています。でも、むかしのように、『手術をしたからクビだ』なんて言いません。いや、言えません。そんなことを言ったら、一発でパワハラですからね。訴えられちゃいますから。時代が変わったんですよ……」
以前のように断固として「ノー」と言えなくなったいま、「性転換手術をするなら、せめて覚悟を持ってやってほしい」と考えているという。
「覚悟のないまま、ただなんとなく手術をすることだけが心配です」
ママは小さくつぶやいた。
現在の「白い部屋」にも、性転換経験者はいる。
そのうちのひとりがこんなことを口にした。
「顔をいじるなら絶対に韓国がおススメ。日本よりも手術例が多いから、医者の技術はハイレベルだし、値段も日本よりも安いから。おっぱいだと、韓国でも、タイでも、日本でもそんなに技術は変わらないし、値段も変わらないかな? でも、《下》をいじるなら、絶対にタイよ。タイは安いし、うまいし、早いし……」
安い、うまい、早い──。
まるで、ファストフードの惹句のようなフレーズを並べながら、屈託のない表情でケラケラ笑う。そこには、コンチママの抱いている葛藤は微塵も感じられない。
そう、確かに時代は変わったのだ──。